Chapter 3-2

 京太きょうたが目を覚ましたとき、最初に見えたのは神埼空かんざき そらの今にも泣きそうな顔だった。


「そ……ら……」

「きょう……た……? 京太? 京太!? うええええええん!! 京太ぁ~~~~!! よかったよぉ~~~~~~!!」


 空は大声で泣きだしながら、京太をがしっと抱きしめた。

 そのまま縦に横にと感情のままに激しく揺さぶる。


「おい、空……! ちょ、やめ……やめろぃ……!!」


 あの、悪かったから揺らさないでくんない? マジで。痛ぇから! 痛ぇから!!


「あ、ごめん」


 空はパッと京太を離した。

 解放された京太はせき込みながら、周囲を確認する。


「んで、ここは……」


 そこはどこか古めかしい、木造の洋室だった。

 部屋そのものがアンティークのようにも感じるそこは。


「『螺旋の環らせんのわ』、か」

「うん。今、本家の方は慌ただしいから、こっちで預かってもらうんだって」

「慌ただしい? 詳しくわかるか?」

「うーん、あんまりよくわかんなかったけど……。京太が倒れてるからって攻めてこようとしてる人がいるって」

「なるほどな……」


 京太はすぐに立ち上がろうとする。

 空の言葉だけでもなんとなく状況は察せられた。京太を刺した犯人は、十中八九扇空寺せんくうじに攻め込もうとしている者の差し金だろう。

 『眼』からの情報でそれを知った家の者たちは、戦いの準備を始めたため京太の面倒を看ることができず、『螺旋の環』に預けたということか。


 問題は自分が倒れてからの流れと、彼奴を差し向けた者が誰なのかということだ。

 情報は欲しいところだが、おそらくそれを集めている時間はない。考えられるのは鷲澤わしざわか、それとも別の勢力か。


「あっ、こらー。まだ寝てなきゃだめだよ」

「そうも言ってらんねぇだろうが。俺が行かなきゃだれが行くってんだ」


 空に制止されるも、京太は固くなった身体をゆっくりと起こしていく。

 そこへドアがゆっくりと開く音が。


「おーそーらーちん、京太君はどうですかー……って!!」


 ドアの隙間から、ひそひそと小声で中をうかがう声。

 そっと顔を出してきた朔羅さくらは、起き上がろうとしていた京太を見て大きな声を上げる。


「こらー! 目が覚めたのはいいけど、まだ寝てなさーい!!」

「っせーな。寝てる場合じゃねぇっての」

「そういう場合ですぅー! あやめちゃんに治してもらったけど、普通だったら即死レベルだったんだから!!」

「だーかーらー、寝るのー!」


 二人の少女がベッドに押し倒そうとしてくるが、色気もへったくれもない状況な上に、力が足りなさ過ぎて倒れようがなかった。


「扇空寺君、悪いけれど本当に寝かせていられる状況じゃないかもしれないわ」


 そこへ続いて入ってきたのはなぎさだ。メガネのつるを押し上げながら続ける。


「扇空寺と鷲澤の抗争が始まったの。戦況は……どうやら鷲澤が優勢のようね」

「……ちっ」


 京太は無理矢理立ち上がる。

 が、その瞬間に胸が激しく痛み、そのままうずくまってしまう。


「っざっけんなよ……! ウチがやべぇってときによ、おちおち寝てられっか……!!」

「……行きましょう」

「なぎさ!」


 それでも立とうとする京太を促して、なぎさは先に出ていこうとする。

 それに声を荒げる朔羅。空も京太を引き止めようとする。


「お前ら、いい加減に――」


 と、京太が声を上げようとしたときだ。


 カランと、ドアベルの音が部屋の方まで響いてきた。

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