Chapter3 黒翼機関

Chapter 3-1

 二人の男がテーブルを挟んで対談していた。

 片や、和服に身を包んだ禿頭の老人である。そして向かいには燕尾姿の若い西洋人が座る。


 彼らが腰かけているソファは豪奢ごうしゃなしつらえであり、広々とした室内には様々な調度品が並んでいた。

 部屋の主の趣味だろうか。その意匠には蛇をモチーフにしたものが多い。


 老人が口を開く。


「さて……。あやつめは上手くやってこれるかの」

「お任せください。ああ見えて彼はプロの忍ですよ」

「ふん……。所詮は手慰てなぐさみよ。上手くいけば儲けものじゃな」

「なるほど、左様でございますか。……ということですが、首尾はいかがでしたか?」


 西洋人の男は背中越しに背後の空間へ声をかけた。

 そこには誰もいない、薄暗い空間があるのみである。

 しかしその陰の中から、一人の少年が静かに姿を現した。


「ああ、しっかりやってきたぜぇ。お友達とご一緒のとこを、前からサクッとな」

「ほう?」


 老人は少年をねめつけるように視線を向けた。


「小僧、その言葉……まことであろうな?」

「もちろん」


 二人はしばらく無言で睨み合う。


 やがて、老人が呵々と大笑した。


「かっかっか! 面白い。いいだろう、君の口車に乗せられてみようではないか」

「では次はいかがなさいますか、鷲澤わしざわ様」


 鷲澤と呼ばれた老人は立ち上がる。


「無論。城攻めじゃよ」


 鷲澤老が部屋を去ってから、しばらくして少年が大きく息を吐く。


「ふー、怖ぇ怖ぇ。ちょっとでもビビってたら殺されてたぜぇ、ありゃ」

「さすがは鷲澤おう。老いてなお健在ということですか」


 西洋人の男は口元に笑みをたたえて頷く。


「それで、お兄さんはどうなりましたか?」

「ん? ああ……。そりゃあもうコテンパンにやられちまってたからなぁ、介錯してやっといたわ」

「ふむ……。さしもの彼でも、扇空寺の鬼には敵わなかったと」


 男はちら、と少年を見やる。

 彼はやれやれと肩を竦めるばかりで、その表情には動揺などは見られなかった。


「さて……。鷲澤が動くとなれば、頭を失った扇空寺がどう出るか」

「あんたは出ねぇの?」

「依頼があれば、ね。それに私は、かの扇空寺の鬼にしか興味はありませんよ」

「そうかい。ま、俺は仕事も終わったんでゆっくり休ませてもらうぜ」


 部屋を出ようとした少年は、直前で思い出したように肩越しに振り返る。


「ありゃ、あれぐらいで死ぬようなタマじゃねぇ。周りにゃ『魔法使い』もいたしな。あんたもわかってんだろ? なぁ、『黒翼機関こくよくきかん』のエキスパートさんよ」


 西洋人の男は薄く微笑むだけだった。


 彼の視線の先、窓の外では首輪を付けた烏が塀の上から飛び去っていった。

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