19話 殺して奪え


「三階はここが最後だ」


 ナスカを捜索する武装した二人のテロリストが生徒会室の前に立つ。一人が突入のためライフルを構え、もう片方がドアを開ける。ドアは鍵がかかっておらず、あっさりと開いたが、その瞬間、突入役のテロリストの視界に茶色い物体が映り、一瞬の痛みの後、突入役の体は激しく燃えだした。


「わっ、わぁぁぁ! 消して、消してくれ!」

「やめろっ! こっちに来るな!」


 火のついたテロリストが仲間に助けを求めようとする。その炎はすぐさま仲間にも伝染し、体を覆いつくしていく。


「ナスカ! 走って!」


 二人のテロリストが焼かれる脇を、ライナはナスカ手を引いて駆け抜けた。上級生の持ち込んだ酒で造った火炎瓶はライナが思う以上に派手に燃え、学校内の火災報知器を一斉に絶叫させる。

 階下へ逃れようとしたライナたちの耳に、階段を駆け上がる複数の足音が聞こえてくる。他の階を捜索していた他のテロリストたちが異変に気づき、ライナたちのいる階に殺到している音だった。ライナはナスカと柱の影に隠れ、カバンからカラースプレーとライターを取り出す。


「この階だ! 急げ!」


 テロリストたちが迫ったとき、ライナは柱から躍り出た。テロリストたちの一瞬の虚をついて、ライナはヒオリから受け取ったままのライターを点火し、カラースプレーを吹きかける。か細い火が竜の吹くような業火に変化し、テロリストたちを襲う。


「ぎぃぃやぁぁ!」

「下がれ、燃え移るぞ! いったん退け!」

「逃がすかぁ!」


 ライナはスプレー缶とライターをまとめてテロリストたちへ投げつけると、踵を返してナスカの腕を引っ張って全速力で走る。背後で悲鳴と爆発音がするが振り返らない。


「全力で走るから、転ばないで着いてきて

!」

「う、うん!」


 テロリストたちがいる方とは別方向にある階段から二人は逃走を試みる。だが、ゆっくりと階段を上る人影を見て、二人は立ち止まった。白い戦闘服と仮面を身に纏った反逆者、ラスコーが階段の踊り場からナスカとライナを見上げる。


「ナスカ、耳塞いで!」


 ライナは拳銃を取り出すと、躊躇なくラスコーへ発砲する。しかし、付け焼刃の訓練しか受けていないライナの撃った弾丸は一発も当たらず、ラスコーは無言のままライナたちへ近づく。


「なんで当たんないのよ!」

「ライナ! 上に!」


 今度はナスカがライナの腕を引き、ラスコーから逃れようとする。二人は最上階から、非常階段に逃れようとしたが、窓の外に見える、銃器で武装したドローンによって阻まれた。追い詰められた二人に、ラスコーが迫る。


「ライナ……」

「姿勢を低くして、私の後ろに!」


 ラスコーは既に二人に数メートルのところまで近づいていた。不安げなナスカを自分の背後でしゃがませ、ライナはラスコーと対峙する。


「その子を渡せ。君の命まではとらない」


 語り掛けるラスコーに、ライナは歯をむき出しにして答える。


「渡せですって? 仮面の反逆者がイモ引いてんじゃないわよ!」


 ライナはサバイバルナイフを取り出すと、逆手に持ち、胸の前で構えた。


「穏便に運ばず、残念だ」


 ラスコーはライナの恫喝に臆することなく、静かに歩みを進めた。ライナの鼓動が恐怖と闘争心で高まる。口を開けば心臓が出てしまいそうなほどの高鳴りだったが、ライナはそれでも吠えた。


「殺して奪え!」


 国や独裁者のためではなく、


「私のダチを拉致るなら、私を殺してから奪ってみせろ! クソテロリスト!」


 一人の友人のため吠えた。

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