21話 反逆者 VS ニセ反逆者
間一髪のところでステインが助けに入ったことで、ライナの肩から力が抜けそうになった。
「ヒオむぐっ」
安心感で危うく名前を呼びそうになったナスカの口を後ろ手に防いで止めながら、ライナは心の中で「遅いっての」となじる。ステインは二人に背中を向けたまま、優雅さをもってラスコーを指さした。
「『私は口を覆わず、臓物にも神聖さを持つ』――この国に自由を取り戻すべく、独裁者を拉致する姿勢は称賛しよう。だが無関係の人間を巻き込んだ貴様の行為は度し難い。神元ナスカの前に、まずはお前から粛清する」
ラスコーは鼻で笑う。
「政府の情報工作のために作られた偽の反逆者が、民主主義を歌ったホイットマンを引用するか。皮肉だな」
「……ど、どうしよう? 政府の人間ってバレちゃってるんだけど」
ステインは弱々しく振り返り、ライナに助けを求めた。
「今気にすることじゃないでしょ! いいから前見て戦えダメヒーロー!」
「頑張ってステイン! ボクのヒーロー!」
「おっしゃー! 女の子からの声援ヨシ! これで勝てる!」
ステインはダークヒーローの雰囲気を捨て去ると同時に
『ボス、こいつが体育館のブラボーチームを一人でヤったやつっす。しかも殺しても死なないっす』
「お蔵入りした人造兵士計画の生き残りか」
『正直、ボス一人じゃ厳しいっすよ。てかそろそろ時間やばいんすけど」
「これを逃すと次の機会はない。ここで終わらせる」
「相談は終わりか? 行くぜ、本物反逆者!」
無線機越しに少女の声と話すラスコーに向って、ステインは駆け、笑警棒を振りかざす。
「来いっ!」
ラスコーも拳を握り、迎撃の構えを取った。しかし、
「ぐはっ!」
ステインの笑警棒は拍子抜けするほどあっさりと、ラスコーの仮面を被った顔面に叩きこまれた。
「「「え?」」」
その場にいたラスコー以外の3人はそのあっけなさに思わず声を上げた。ラスコーは脳震盪を起こし、立つことがおぼつかなくなっている。
「え、うそ、こいつザッコ!」
ステインはふらつくラスコーに容赦なく笑警棒を叩きつけ続ける。
「おらおら、どうしたぁ! 絵筆より重いもの持ったことねぇのか反逆者!」
「あはっ! あははははは!」
笑警棒の先端を押し当てられたラスコーは笑い出す。なんとかステインに蹴りを入れ距離を取るが、戦闘開始10秒そこらで、ラスコーは既に肩で息をしていた。
『あーあ、言わんこっちゃない』
「うるさい。奴の解析はできたか」
『アイアイ、できてるっすよ』
息も絶え絶えのラスコーに少女の声は不敵に笑って答えた。
『報道や今回の動きから解析するに、警棒術に古い軍隊格闘術の合わせ技っすね。対抗用学習データは流し込み済み。とっととやっちゃってくださいっす』
再び構えをとったラスコーにステインは違和感を覚えた。先ほどまでは戦い慣れしてない様子だったラスコーが、急に歴戦の戦士のような無駄のない構えをとっているからだ。
「じっくり矯正施設で反省してもらうぜ!」
自分の思い違い、勘違いだと疑念の頭の隅に追いやり、ステインはトドメの一撃を加えるべく再び笑警棒を振るった。が、その渾身の一撃はラスコーに片手でいなされた。
「ちっ、往生際の悪い!」
ステインは繰り返し笑警棒を振り下ろし、払い、突き、ラスコーの急所を狙う。しかしステインの攻撃は全て効率よく躱され、いなされ、防御された。ラスコーがカウンターとして放った拳がステインの腹部を容赦なく抉る。
「ぐっ、なんなんだ、急に強くなりやがって」
ラスコーに攻撃が通じなくなった理由が分からず、ステインは警戒し、後ずさり距離をとる。
意外にもナスカが真っ先に、突然ラスコーの戦闘力が向上した原因に気づいた。
「ステイン! モーターの音が聞こえる! そいつ
「正解だ、神元ナスカ」
「くっそ、マジかよ……」
状況や言葉の意味が分からず、ライナは戸惑いの目でナスカを見やった。
「なに、そのなんとかスケルトンってのは」
「
ナスカのラスコーとヒオリを見る表情には焦りの色がはっきりと見て取れた。
「こういう装備は
「そんなにヤバイ代物なの?」
「
ラスコーが腰に差した大ぶりのマチェットを抜く。接近される前に倒そうと、ステインは拳銃を抜き、腰だめに連射するが、放たれたプラスチック弾は全てマチェットに切り伏せられた。
「くそっ! 党が禁制品にしてるだけあって超強ぇ!」
もはや完全に形勢は逆転していた。ゆっくりと歩みを進めるラスコー。対して後ずさるステインは徐々に守っているライナとナスカの方へ追いやられる。
「ライナ! ダメだ勝てねぇ! ナスカを連れて逃げてくれ!」
「はぁ?! なんとかしなさいよ! たかがAIでしょ?!」
「バカ言え! 人間様なんかじゃ戦闘AIの適応力に敵わねぇんだよ!」
ステインの声には余裕はない。
「なんとか時間を稼ぐ! 体育館にいるテロリストは排除したから、そこで閉じこもってろ! そろそろ警察もつくはずだ!」
「やだっ、ステインを置いていけないよ!」
「わがまま言うな独裁者! 行け!」
ステインは手に持った武器を投げ捨てると両手を広げステインに突進する。捨て身のタックルはラスコーのマチェットが腹部に深く突き刺さったとこで止められた。
「つぅっかまえた!」
ステインはマチェットを持つラスコーの腕を抑え込む。体に深くマチェットが食い込むこともいとわず、ステインは体をひねってラスコーを壁際に押し付けた。
「往生際が悪いのはお前の方だな、ステイン……!」
「ライナ! 頼む!」
ライナはすぐさまナスカの手を引き駆け出した。何もできない自分の無力さにライナは歯を食いしばりながら、戦う仮面の反逆者たちの脇を通り過ぎる。
「ステイン! ステイーン!」
ナスカはライナに引っ張られながらも、叫ぶ。遠ざかるナスカの声を聞いて、ステインは痛みでうめきながらも仮面の下で笑った。
「どうだラスコーさんよぉ。俺、国家元首にベタ惚れされてんだぜ? お前みてぇな陰キャ野郎には一生そんなイベントねぇんだろうなぁ!」
「……下劣で反吐が出る」
ラスコーは自由な左手でステインの喉元を突く。急所を打たれ、力が緩んだステインを突き飛ばし、マチェットを引き抜くと同時に、流れるような動作でステインの右腕を切断した。
「……うぇ?」
何が起こったか理解できないステインの隙をラスコーは逃がさない。すぐさまステインの首元に刃を閃かせた。ステインから吹き出す血が、ラスコーの白の戦闘服を赤黒く染める。傷自体はすぐに塞がる。だが器官にあふれでた血液はどこかに消えることなく残った。
あ、これ、やべ
喉を切られたステインは、そう言葉を発すること叶わず、出血と、自らの血による窒息によりその場に倒れた。狭まる視界の中、ラスコーが切断した右腕を拾い上げる。
「無敵の人造人間も、ここまで大きな部位修復には時間がかかるだろう。しばらくそこで寝ていろ」
右腕を持ったまま、ラスコーは倒れたステインに背を向け、ナスカの追跡に戻る。遠ざかるラスコーにステインは残った左手を伸ばすが、その手で空を掴んだ後、息途絶えた。
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