第13話 さらば、ウィペット村
市場で必要物資を買い揃えた俺とジャックは、大勢の人に見送られながら村の入り口までやってきた。
すると、バセットさんに引き連れられていた何人かの村人が、荷馬車の荷台に大きく膨らんだ袋をいくつかのせてくれる。
「これはウィペット村の特産品、『ショコロの実』です。厳しくも豊かな自然に育まれた自慢の作物でございます。せめてもの感謝の印ですので、どうか受け取って下さい」
「うわぁ、こんなに沢山! 本当に良いんですか?」
「もちろんですとも。あなた方の旅の助けになれば、これほど光栄なことはございません」
袋の中一杯に入っていたのは、昨日市場でも見かけた、青色と黄色のマーブル模様という攻めた見た目の不思議な果物だった。
あれって、この村の特産品だったのか。
「こりゃ凄いな。ありがたいけど、こんなに食べ切れるかな?」
「かなり日持ちする果物ですから大丈夫ですよ。道中、ゆっくり召し上がると良いでしょう」
「はい、大切に頂きます! ありがとう、村長さん!」
「ほほっ、どういたしまして。して、お二人はもう次の目的地は決めておられるのですかな?」
バセットさんの問いに、ジャックが頭を掻きながら答えた。
「ええと、とりあえずレークランドの方角に向かって行こうとは思ってるんですけど……この辺りにはあんまり詳しくないから、細かいことはまだ決まってなくて」
「ほう、そうでしたか」
ゆったりと口髭を撫でていたバセットさんが、やがて「でしたら」と口を開く。
「まずはスパニエルの街を目指すのが良いでしょうな。中小都市とは言え、あそこは王都と地方との中継地ですから。この辺りの村々よりは色々と旅の装備や情報など集められるでしょう」
ジャックの持っていた地図に、バセットさんがペンで丸印を付けてくれた。
大きな山脈の麓辺りに位置する場所。どうやらそこに、スパニエルの街とやらがあるようだ。
「わかりました! ならまずはそこに行ってみます!」
俺とジャックは再びバセットさんにお礼を言って、名残惜しそうな顔をする村人たちに見つめられる中、荷馬車へと乗り込む。
「それじゃあ、村長さん。ボクたちそろそろ出発します。色々とお世話になりました!」
最後にジャックが締め括り、俺もひらひらと手を振った。
「あなた方の旅が、良きものとなりますように」
バセットさんをはじめ、村人たちの盛大な見送りを受けながら、荷馬車はゆっくりと動き出す。
段々と、村人たちの姿が小さくなっていった。
「ふふふ、凄いや。まだ手を振ってくれてるよ」
遂に豆粒ほどにしか見えなくなるほど離れても手を振っている彼らを見やり、ジャックが嬉しそうにそう言った。
きっと俺たちが見えなくなるまで、彼らはああして見送ってくれるのだろう。
「あんなに人を喜ばせられるなんて……作家っていうのも、なかなか素敵な仕事だね? まぁ、キミが素敵かどうかはともかくとしても、だけどさ」
なんて言って悪戯っぽく笑うジャックを尻目に、
「まったくもって同感だ。前半はな」
とニヒルに返して、俺も姿が見えなくなるまで、村の人たちを見つめ返した。
「さて、と。スパニエルの街とやらに着くまでに、一仕事するかな」
俺は馬車の荷台にあった適当な木箱をテーブル代わりに、ブックホルスターから取り出した緑の本を広げる。
ミネルヴァの話では、旅の記録はこっちの本に記していけば良いんだったな。
「そうだ、シバケン! せっかく二人旅になったんだからさ、ちょっと馬車の操縦を代わってくれない? ボク、次の街に着くまでに武器とか防具とか、色々と商品を作っておきたいんだよね」
「いや、俺もちょっと作業したいから無理」
「え~? いいじゃんちょっとくらい!」
「すぐ終わるから少し待て。本を書き終わったら代わってやるから」
ぶつくさと文句を言って頬を膨らませるジャックをよそに、俺は赤本のメモを片手に紙面にペンを走らせた。
「ええっと……〈大陸歴五〇××年──〉」
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