第16話 おしあいを おぼえた!

「ココちゃん、すげーもん持ってるな! こっちまで臭ってきたぞ!」


「……ですよね。臭いですよね」


 私と推しは腕で鼻を塞いだ。


 投げつけた瓶から、前に好奇心で買って嗅いだ、シュールストレミングみたいな激臭が出ている。そりゃあ盗賊にゲロを吐かせて倒せるわけだ。


 ピロリロリンッ。テレレレッレッテッテー。


「そうだった、つい忘れるけど、盗賊を倒せたんだった」


『それぞれ 108のけいけんちを かくとくした!

 253マネーを てにいれた!

 ココは レベル7に あがった!


 ちからが 2あがった!

 すばやさが 2あがった!

 たいりょくが 2あがった!

 かしこさが 3あがった!

 うんのよさが 3あがった!

 さいだいHPが 7あがった!

 さいだいMPが 5あがった!

 こうげきのちからが 2あがった!

 しゅびのちからが 3あがった!

 こうげき魔のちからが 2あがった!

 しゅび魔のちからが 3あがった!

 みりょくが 1あがった!


 ココは おしあいを おぼえた!』


「……ん?」


 おしあい? 押し合い?


『だがしかぁし! 推しeyeを舐めてもらっちゃ困る』


「……」


 そんな事、思ったね。


 推しアイね、また心の中を見やがったのね、この鶏は。


 まぁ、いいよ。特技はたくさん覚えるに越したことはないよ。

 そして、もうわかったよ。これから私は『おし◯◯』という特技を覚えるんだね。ヲタの私にぴったりな特技どーもありがと!


『エンウーは レベル8にあがった!


 ちからが 3あがった!

 すばやさが 5あがった!

 たいりょくが 4あがった!

 かしこさが 4あがった!

 うんのよさが 5あがった!

 さいだいHPが 7あがった!

 さいだいMPが 6あがった!

 こうげきのちからが 3あがった!

 しゅびのちからが 4あがった!

 こうげき魔のちからが 3あがった!

 しゅび魔のちからが 5あがった!

 みりょくが 2あがった!


 エンウーは ぴよぶえを おぼえた!』


「ぴよぶえ?」


「楽しみにしているコケー? きっと、ココさん喜ぶコケー」


「本当かなー」


『テイオスは レベル14にあがった!


 ちからが 7あがった!

 すばやさが 9あがった!

 たいりょくが 6あがった!

 かしこさが 4あがった!

 うんのよさが 4あがった!

 さいだいHPが 9あがった!

 さいだいMPが 5あがった!

 こうげきのちからが 6あがった!

 しゅびのちからが 4あがった!

 こうげき魔のちからが 3あがった!

 しゅび魔のちからが 4あがった!

 みりょくが 15あがった!


 テイオスは すてみを おぼえた!』


「……ん?」


「捨て身か! こりゃ気合が入るな!」


 推しはわっはっは! と、笑っているが、ねぇ、ちょっと待って。

 捨て身だよ? 捨てる身と書いて、捨て身だよ? 身を捨てる攻撃だよ?

 武闘家って肉体の特技が多いのは知っているよ。でもさー。


「……テイオスさん」


「どうした? ココちゃん」


「新鮮な空気を吸いたいので、ちょっとあっちに行ってますね」


「おうっ、そうだなっ。俺もここらで休憩してるな」


「はいっ。……エンウー、ツラ貸せや」


 目をカッと開き、エンウーを手招きし呼んでこの場を離れた。






 ワスタ橋の左奥。


「ココさん、目をカッ開いて呼ぶのやめてほしいコケー。怖いんだコケー」


「うっさいわ、私の腹を立てる事をするお前が悪いんじゃ。ところで、エンウーくん?」


「コケ?」


「どうして推しに、テイオスさんに、庇うとか、捨て身とか、危ない特技を覚えさせるのかな?」


「武闘家って肉体の特技が多いのは知っているコケ?」


「んー……、心の中を見るのやめようねー。現実はもうすぐクリスマス、ローストチキンにされたいのかなー?」


「嫌だコケー! でも、仕方ないコケ。だって僕は鶏で、ココさんはぽっちゃりアラサー根暗ヲタ」


「だからねー? 傷口に塩を塗るのやめようねー? というか、君は神だよねー? 神ウンエーだよね?」


「違うコケー、僕は長年ココさんの旅の相棒! 頼れる可愛い鶏! エンウーコケー!」


「頼りにならんし」


「コケー……」


「可愛くないし。推しに寄せやがって腹立つし」


「コケー……。と、とにかく! 鶏とヲタ! そうなったら武闘家のテイオスに身が危険でも、強力な特技を覚えてもらうのは必然だコケ?」


「……こんな時ばっか、ごもっともな事を言いやがって」


「世界を見通す、それが僕、神ウン——」「やっぱり神だろ」


 ウンエーは固まり、外方そっぽを向いて。


「プシュプフフー」


 ダッサいくちばしぶえを吹いた。


「あははっ、だから、吹けてないってば!」


「笑わないでほしいコケー!」

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