第15話 だって、生きている

 HP1ってさ、ある意味、強運だよね。しかも、今回は会心の一撃を食らっての1だよ。すごくない?


 でもさ、『未来クエスト』って、コマンドバトルだけど、最初だけなんだよね、仲間を一気に選択できるの。順番的にはまたエンウーを選べるんじゃない? と思うじゃん、普通。でもね。


『盗賊Dの こうげき!


 かいしんの いちげき!


 エンウーは 17のダメージをうけた!』


「痛いコケー!」


 こういう事。


 敵の次はこちらのターンとは限らないのだ。


 あ、そうだ。エンウーは盗賊のへべれけパンチを食ってよろけていたけど、大丈夫かな。

 いくら腹が立つ鶏でも、相棒だし仲間。会心の一撃で、HPヤバいんじゃ!? と心配になり、確認した。


 エンウー


 H 33


「……」


 防御が功を奏しやがったみたい。まだまだ大丈夫そうだ、HP1の私と比べれば。心配して損した。


 そう、そして、次が問題だ。


 さっきも伝えたが、またエンウーからではない。次はランダムなのだ。


 盗賊Dが私の方を向いた。


『盗賊Dの こうげき!


 かいしんの いちげき!』


 ああ……、オワタ。


「ココちゃん危ねぇ!」


『テイオスの かばう!』


 推しが両手を広げ、私の前に立った。


「はい?」


『テイオスは ココを まもった!

 テイオスは 48のダメージをうけた!』


 推しはお腹にへべれけパンチを食らった。


「……え?」


 いやいやいや! ちょいちょいちょい! え!? 何で!? 何も選択してないじゃん! なのに何で!? これもバグ!?


 ……違うな。バグとか言ってごめんなさい、テイオスさん。

 NPCも生きているんだ、NPCにはNPCの人生があるんだ。


 ビギニア村の村長も、ワスタ橋にいるカリール兵も、この盗賊だって、みんな、生きているんだ。


「ごめんなさい……、テイオスさん」


「ん? 気にするなっ、可愛い女の子を守るのが男の役目だ!」


 推しは振り返ると、会心の一撃を食らった辛さも見せず、ニッと笑った。


 んー! ちゅき!


 そして、また涙が出そうだ。

 武器防具を買い忘れるという初歩的なミス、自分の弱さ、守ってくれた推しの強さに。

 どうして歳を取るごとに、涙腺って弱くなるんだろうか。

 私の場合、性格が相まっているからだろうな。根暗だから、すぐ自分を責める、悪い方向に考える、落ち込む、泣く。この悪循環をいつも無限ループしている。


 でも、泣くな! ココ!


 泣くなら嬉し涙を流せ! そう! こいつを倒せたら泣くんだ!


 だからっ、どうか! 次はこちらのターンでありますように!


 私の願いは。


 ココ


 届いたが届かなかった。


 推しなら、特技を使わなくても盗賊一人ぐらい倒せただろう。


 だが、私。


 使える魔法、なし。

 使える特技、推し活のみ。


 この推し活も、応援をしたとて、次が推しじゃなきゃ意味がない。


「だが、慌てるなかれ」


 何回でも言うが、私は、旅行商ココなのである! しかも! 珍品ばかり卸しに来る!


 だから、もう一度、道具を見てみよう。きっと、いや、絶対に! ダメージを与えられるアイテムを持っているはずだ!


 左側ウィンドウ、コマンド選択。


 たたかう 


 ココ どうぐ


 傷薬 すごい傷薬 とてもすごい傷薬 めずらしい傷薬 とてもめずらしい傷薬 あぶない薬


「……ん?」


 危ない薬? あーはいはい、もうわかったよ。これも私が呼んだバグね、だって、こんなアイテム見た事ない。


 でも、危ないんだから、毒薬とか、火炎瓶とか、ダメージを与えられる系だと願う!


 たたかう 


 ココ どうぐ


 あぶない薬

 

『ココは あぶない薬を つかった!』


 体が勝手に動き、腰に付けていた布の道具袋から、雑巾を絞ったような色の液体が入った瓶を、盗賊Dに投げつけた!


 危ない薬は、盗賊Dの頭に当たり、パリンッと割れた。


『盗賊Dは ゲロをはいた!』


「……はい?」


『盗賊Dに 56のダメージ!


 盗賊Dを たおした!』


「……」


 まさか本当に、雑巾を絞った汚れ水だったの?

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