うそつき市長(その12)

店の前で待っていると、山崎がゴム草履をつっかけてやって来た。

目が細く、坊主頭でガタイがいいので、美香ではないが、不気味な感じがする。

お店に入ると、正面のミニステージの天井のスポットライトの明かりだけを点け、山崎は壁に沿って長いカウンターの中に入った。

どこに座ったらいいのか迷ったが、カウンターの前のスツールに腰を載せた。

可不可は足元にうずくまった。

暗闇の中に立つ山崎は、カウンターに両手を突いたまま口を開かない。


「市長が、どこでどうやって舌を噛み切ったかを調べているわけじゃありません。美香ちゃんのお母さんと連絡が取れるようにしたいだけです」

そんなふうに話しかけても、山崎は口をへの字に曲げたまま睨みつけるだけだった。

「美香ちゃんのお母さんはどうして隠れていなきゃあならないんです?」

薄暗闇をことばで埋めるようにして話かけた。

しばらく山崎は黙っていたが、

「・・・市長は自殺だと思っているのか?」

と、やっと重い口を開いた。

「そうとしか考えられません。ですが、豪雨の中を黒いワゴン車で遺体を棄てに来た黒いレインコートの男がいます」

山崎の細い目の中を覗くようにして言った。

「・・・・・」

「でも、・・・そんなことはどうでもいいです」

「・・・・・」

「美香ちゃんのお母さんをどうして隠すのです?せめて声だけでも聞かせてあげてください」


「・・・市会議員の水元は誰が殺したと思う?」

話がそっちへ切り替わった。

「模倣犯という見方もあるし、政治に不信感を持つテロリストの仕業という見方もあります・・・」

山崎の細い目が鋭く光った。

「でも、これは目くらましだと思います」

「・・・目くらまし?」

「明らかに、市長の事件から目を逸らさせようとしています。さらに元市長の老人に二本の小指を送りつけて、義憤に駆られたテロリストの仕業に見せかけようとしています。これは殺人予告です」

「・・・・・」

「一連の事件と、美香ちゃんのお母さんの失踪とはどう繋がっているのです?『今は隠れていなければならない』と伯母さんが言ったそうですが、いつまで隠れていればいいのです?元市長がテロリストに殺されればもどって来るのですか?」

矢継ぎ早に質問を浴びせかけると、山崎は天を仰いだ。

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