うそつき市長(その11)

遠い道のりを自転車を漕いで美香が再びやって来た。

「本気でママを探してるの?」

美香が、腰に手を当てて目の前に立ちはだかった。

「あ、ああ・・・」

口を開けたきり何も答えられなくなった。

保護者たる伯母さんから追い出しを喰らったので、正直この話はもうとっくに終わったものと思っていた。

だが、ノートに誓約書を書いた美香は、そうは思ってはいないようだ。

「伯母さんはお母さんの居所を知っていると言ったよね。これは何としても伯母さんから聞き出すしかないね」

「でも、何度聞いても、『今がいちばん大事。今出て来てはダメ』って伯母さんは言うの。何のことだかさっぱり分からない。だから探偵さんに頼みに来たのに・・・」

美香は泣き出した。

「・・・・・」

可不可を見ると、微かに首を振っている。

手を引けという合図だ。


「お店は?」

「あれからずっとお休み」

それでも美香は学校へは行っているようだ。

「ああ、あのバーテンダーの男のひとはどう?」

「富さんね。無口で不気味なんで、ほとんど口をきいたことがない」

「伯母さんがダメなら、その富さんに聞いてみてはどうだろう」

そう言ったが、美香は梃子でも動こうとしない。

やむなく、富さんの居所を聞いてから美香を帰した。


日が暮れるとすぐに、富さんことバーテンダーの山崎富美男の家に向かった。

カラオケスナックの店の裏手で歩いて20分ぐらいの、エントランスにインターフォーンもオートロックもない古色蒼然としたマンションだった。

5階のエレベータホールのすぐ前のドアベルを押すと、チェーンをつけたドアが細目に開いて、鋭い目がこちらを見た。

「美香ちゃんに雇われた探偵です」

とドアの隙間から声をかけたが、ドアは開かなかった。

相変わらずこちらを睨むように見ている。

「何の用だ?」

問い詰めるような低い声がした。

「入れてもらってもよいですか?」

と頼むと、

「お店で会おう」

と言うなり扉は閉じた。

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