29 ビック・セブンの矜持

「敵艦に命中二を確認!」


 見張り員の歓喜の声が、日向夜戦艦橋に響く。

 陸奥の後方を進んでいる第二戦隊第一小隊は、敵二番艦に対して砲撃を繰り返していた。

 陸奥と同じように敵艦が針路を固定するまでは空振りを繰り返していたが、伊勢は第七射にて、日向は第六射にて命中弾を出していた。

 日向には海軍技術研究所の技術者が乗り込んで電探の整備・操作に当たっており、松田千秋艦長は彼らに電探による測距を命じていたのである。

 試み程度のものではあるが、電探を援用した射撃を行おうとしたわけである。

 戦後は発明家として数々の特許を取得することになる松田らしい、柔軟な発想であった。彼は日向乗組の海軍技研の技術者たちから、距離に比例して測距精度が落ちる光学照準に比べ、電探は距離によって探知精度が変わらないことを知らされていた。

 ならば、光学照準の補助として使えることに気付いたのである。

 その結果かどうかは判らないが、日向は伊勢よりも先に命中弾を叩き出すことに成功していた。

 そして第七射から十門すべてによる斉射を実施し、先ほどの第八射までに五発の命中弾を得ていた。

 伊勢は第七射で一発、第八射で二発の命中弾を得ていたから、これで敵二番艦には八発の三十六センチ砲弾が命中したことになる。


「敵艦、なおも発砲!」


「やはり、伊勢型では限界があるか……」


 その報告に、松田は溜息交じりに呟いた。

 帝国海軍の想定では、六発から八発の命中で敵艦の戦闘力を喪失させられ、十二発から十六発の命中で航行不能ないし撃沈に追い込めるとしていた。

 しかし、それはこちらの砲弾の威力が相手の装甲を貫通出来る限りにおいてである。

 敵新鋭戦艦は十六インチ砲搭載艦。当然、防御も対十六インチを想定しているだろう。三十六センチ砲搭載艦である伊勢型には、いささか荷が重い相手である。

 近藤中将率いる第四戦隊が敵戦艦の直衛艦の妨害を突破して、上手く魚雷を命中させてくれることを祈るしかない。

 ほどなくして、伊勢の周囲に弾着があった。

 未だ敵二番艦からの命中弾はなかったが、一発でも命中すれば大損害は免れないだろう。伊勢型は所詮、三十六センチ砲搭載戦艦でしかないのだ。


「第九射、射撃用意よし!」


「てっー!」


 砲術長・安藤憲栄のりひで中佐の号令を聞きながら、松田は伊勢が無事な内に第四戦隊による雷撃が成功することを祈らざるを得なかった。


  ◇◇◇


 戦艦ワシントンの船体に、二度目の敵十六インチ砲弾による衝撃が走る。


「ダメージ・リポート!」


「後部甲板に被弾! カタパルトおよびクレーン全壊!」


「第一煙突付近に被弾! 機関出力、低下します!」


「右舷対空方位盤、全壊!」


 陸奥の第九射として放たれた八発の四十一センチ砲弾の内、命中したのは二発。

 一発は後部飛行甲板に命中し、水偵用のカタパルトとクレーンを完全に破壊した。

 もう一発は両用砲が並べられている艦中央部に命中、そこにあったMk37対空方位盤を破壊したまま第一煙突の煙路まで貫通、そこで信管を作動させて爆風を機関部に逆流させた。

 この衝撃によって、合衆国海軍の誇る高温高圧缶八基の内、二基の出力が低下、速力を二十四ノットにまで低下させることになった。


「機関室、復旧急げ! 後続のノースカロライナにも警告を出せ!」


「アイ・サー!」


 下手をすれば、速力の低下したワシントンにノースカロライナが衝突しかねない。ただちにTBSと信号でノースカロライナにワシントンの機関出力低下が知らされる。


弾着、今スプラッシュ・ナウ!」


 そして、被弾前に発射した第五射の弾着を知らせる時計員の声が響く。


「遠、遠、近! ただ今の射撃による命中弾なし!」


「急げ、ハーベイ!」


 デイビスは焦燥を滲ませた声で砲術長を叱責した。レーダーによる測距を用いてなお、目標を夾叉するに至っていないのである。

 もっとも、これには無理からぬ面も存在していた。

 ノースカロライナ級に搭載されたMk6四十五口径十六インチ砲の砲口初速は、SHSを用いた場合、七〇一メートル毎秒。

 一方の長門型戦艦の四十五口径三年式四十一センチ砲は、重量一〇二〇キログラムの九一式徹甲弾を砲口初速七九〇メートル毎秒で撃ち出すことが出来る。

 ノースカロライナ級(と、その後継艦であるサウスダコタ級)の主砲は、遠距離砲戦における貫通力を強化した一方、初速の低下と砲弾重量の増加によって従来型の十六インチ砲よりも射撃精度を悪化させていたのである。

 旧式のはずのナガト・クラスに、合衆国の最新鋭戦艦たるワシントンが圧倒されつつある。その現実は、デイビス艦長やウォルシュ砲術長の胸の内に確実に焦燥を呼び起こしていた。






 最初に被弾したのは、伊勢であった。


「後部見張所より報告! 伊勢、被弾の模様! 火災発生中!」


「了解。報告ご苦労」


 内心の動揺を押さえ込むかのような硬い声音で、小暮艦長は応じた。

 やはり、先に命中弾を出したとはいえ、三十六センチ砲では敵新鋭戦艦に十分な打撃を与えられなかったか。

 伊勢艦長・武田勇大佐の感じているであろう無力感を思うと、陸奥としても何とか出来ないものかと思ってしまう。

 しかし、まだ敵一番艦を撃破出来ていない状況では、目標を敵二番艦に変更するわけにはいかない。

 直後、陸奥の周囲にも弾着があった。


「本艦、夾叉されました!」


 そして、敵一番艦は若干の速力の低下は見られるものの、未だ砲戦能力や射撃精度は維持しているようであった。


「いよいよ、正念場だな」


 敵に夾叉された以上、陸奥もまた被弾を免れないだろう。だが、先に命中弾を得た陸奥の方が、まだ優位に立てているはずだ。


「運用長、被弾の時は頼むぞ!」


「はっ、最善を尽くします」


 応急修理を担当する運用長・公文くもん恵章しげのり中佐の声も、流石に硬かった。

 戦艦同士の砲撃戦は、帝国海軍にとって日本海海戦以来となる。約四〇年前の戦艦に比べて、格段に破壊力を増した砲弾を喰らった場合、どのような被害が出るのか。

 小暮艦長も公文運用長も、緊張を隠すことは出来なかった。






 ワシントンの第六射が陸奥を夾叉した直後、今度はワシントンが陸奥からの直撃弾を受けていた。

 命中したのは、三発。

 一発は後部檣楼に命中し、後部射撃指揮所ごとそこを消滅させた。もう一発は再び艦中央部に命中し、右舷側の両用砲群を完全に爆砕した。

 そして最後の一発は、第一主砲塔基部に命中。装甲の貫通は果たせなかったものの、砲弾の爆発でバーベットを歪ませて、第一主砲塔を旋回不能とした。

 ワシントンは陸奥に夾叉弾を出しながらも、その直後に主砲三門を実質的に射撃不能とされてしまったのである。






 だが一方で、陸奥にもまた、ワシントンの放ったSHSが直撃していた。

 基準排水量三万九〇〇〇トンの船体が、激震に揺れる。


「被害知らせ!」


「左舷中部に被弾! 左舷副砲および兵員室付近に火災!」


「消火、急げ!」


 両舷に備えられているケースメイト式の十四センチ副砲の内側には、弾薬庫ではなく兵員室が設けられている。

 副砲の弾薬庫は下甲板よりさらに一層下の第一船倉甲板にあり、戦闘時には中甲板の装甲内にある弾薬供給所に砲弾と装薬が上げられる。現在、敵水雷戦隊の接近もないことから副砲弾薬の誘爆を避けるため、副砲の弾薬は中甲板の弾薬供給所に置かれたままになっている。

 だから、副砲に被弾しても被害を拡大させるような誘爆は発生していない。

 少なくとも、船体に深刻な打撃は生じていなかった。

 そのことに、小暮は安堵する。

 陸奥はその健在を示すかのように、第十一射を放った。四度目の、全門斉発である。






 敵ナガト・クラスへ命中弾を出した喜びも醒めやらぬ内に、ワシントンには四度目の衝撃が訪れていた。


「ダメージ・リポート!」


 デイビス艦長の声には、焦燥だけではない硬いものが混じっていた。

 合衆国海軍の新鋭戦艦たるワシントンが、旧式のナガト・クラスによって確実に打撃をこうむっている。その現実に、半ば恐れに近いものを感じていたのだ。


「中央部に被弾! 第一機関室、応答ありません!」


 そして、その報告はデイビスにさらなる衝撃を与えるものであった。


「馬鹿な! そこはヴァイタルパートだぞ!」


 軍縮条約による設計変更に翻弄されたノースカロライナ級であるが、機関部の装甲だけは敵十六インチ砲弾にも確実に耐えられるだけの厚みを誇っていた。

 ノースカロライナ級は第一主砲塔から第三主砲塔までを主要防御区画としており、十五度の傾斜を付けた舷側装甲(垂直装甲)は最大三二四ミリの厚さを誇り、さらにその内側にある機関部には十九ミリから十六ミリの装甲が施されていた。

 しかし、長門型の搭載する四十五口径三年式四十一センチ砲は、距離二万メートルにて垂直装甲に対して四五四ミリという貫通力を誇る。

 砲戦距離一万八〇〇〇メートルでは、ノースカロライナ級は長門型の主砲によって主要防御区画の装甲を容易に撃ち抜かれてしまうのである。

 この時、陸奥の放った九一式徹甲弾の内、一発がワシントンの垂直装甲を貫通、そのまま機関部を覆う十九ミリの装甲をも突き破ってその信管を作動させたのであった。

 ノースカロライナ級の機関部は汽缶二基と主機一基で一つの区画を構成し、汽缶と主機の位置を交互に入れ替えるシフト配置となっていた。

 そのために被害は一区画のみに抑えられたが、機関の四分の一を失ってしまったのである。

 先ほどの被弾によって第一主砲塔が使用不能となったこともあり、ワシントンは確実に戦艦としての能力を低下させつつあった。

 命中弾が出れば、逆転も可能。

 そう思っていたデイビスの考えとは裏腹に、新鋭戦艦たるワシントンは旧式のナガト・クラスに圧倒されつつあったのである。

 彼の衝撃は、次なる互いの斉射によってさらに大きくなった。

 ワシントンの放った第七射は、陸奥に対して二発の命中弾を得た。

 一発は陸奥の飛行甲板に命中し、そこにあったカタパルトなどを吹き飛ばして水平装甲を貫通、その下にある士官室や主計科事務室などを完全に破壊するもそれ以上の被害をもたらすことは出来なかった。

 大改装の際、機関部に張り巡らされた一〇〇ミリの装甲が、艦内深部への被害を食い止めたのである。

 もう一発は第三砲塔を直撃したが、青白い火花を散らしながら弾かれてしまった。

 長門型の主砲塔の装甲は、最大で五〇〇ミリの厚さを持っている。対してSHSの二万ヤードでの貫通力は、四四八ミリ。

 この距離で、ワシントンは陸奥の砲塔を完全に破壊することは出来なかったのである。

 しかし、被弾の衝撃で陸奥の第三砲塔は仰俯角装置が故障、これにより射撃が不可能となってしまった。

 一方、ワシントンに命中した陸奥の九一式徹甲弾は三発。そしてその被害は、陸奥以上のものだった。

 一発は艦首部の錨鎖庫を直撃。非装甲区画であったそこを、隔壁を突き破りながら反対舷まで貫通して水柱を立てた。そして、両舷に空いた破孔から海水の浸入が始まったのである。これにより、ワシントンは前のめりになるような形で傾斜を深めていく。

 二発目は第一砲塔と第二砲塔の中間に命中、最大で九五ミリの装甲が施された弾薬庫までは貫通出来なかったものの、弾薬庫付近にて火災を発生させることに成功。

 加熱された弾薬庫が誘爆することを恐れたデイビス艦長は、ただちに第一、第二砲塔弾薬庫に注水を命じた。

 これにより、バーベットの歪みによって使用不能となっていた第一砲塔に続き、ワシントンは第二砲塔まで失うこととなったのである。

 そしてワシントンは艦首への浸水によって艦のトリムが狂ってしまったため、一時的に射撃が不可能となってしまった。艦後部への注水によって傾斜を復旧するまで、彼女は沈黙することを余儀なくされたのである。


「リー提督!」


 デイビスは艦内電話で戦艦戦隊司令官に呼びかけた。


「ノースカロライナに目標をナガトに変更するよう命じて下さい! このままでは本艦は―――」


 その刹那、陸奥の第十三射がワシントンに降り注いだ。

 第三砲塔を失い、六門となった陸奥の四十一センチ砲が放った九一式徹甲弾は、二発がワシントンへの直撃弾となった。

 一発はすでに使用不能となっていた第二砲塔に命中し四〇六ミリの装甲を貫通、砲塔内で爆発し、砲塔長を始めとする砲塔員を全滅させた。

 ただし、すでに弾薬庫には注水され、また砲塔内は防焔・防爆対策がなされているので、九一式徹甲弾の爆発が弾薬庫にまで伝わることはなかった。

 そして、もう一発の砲弾は再び中央部の装甲を貫通、第三機関室を徹底的に破壊した。

四つの機関区画の内、二つが破壊されたワシントンは、艦首からの浸水の影響もあって吊光弾の光の下、急速に速力を低下させつつあった。






「敵一番艦、速力低下していきます!」


 見張り員の弾んだ声が、陸奥夜戦艦橋に響き渡る。小暮ら艦橋要員たちも、張り詰めていた緊張からしばしの間、解放された。

 敵艦の速力が急激に低下していったことにより、陸奥と敵一番艦との距離は徐々に開きつつあった。


「砲術長、よくやってくれた」


 小暮はそう言って、中川砲術長を労った。

 帝国海軍の象徴たる長門型を率いて米戦艦に打ち勝った達成感を、小暮も中川も味わっていた。

 そして、その高揚のままに小暮は新たな命令を下す。


「敵一番艦の止めは、第四戦隊に任せよう。本艦は第二戦隊救援のため、目標を敵二番艦に変更せよ。照準出来次第、撃ち方始め」


「宜候。目標、敵二番艦に変更。照準出来次第、撃ち方始め」


 砲術長の復唱が響き、陸奥の残された三基の主砲塔は敵二番艦に向けて旋回を始めていた。


  ◇◇◇


 日向夜戦艦橋からは、伊勢が敵十六インチ砲弾の直撃を受けて炎上していく様子がはっきりと見えていた。

 伊勢は最初の被弾から五度、敵二番艦からの直撃弾を受けていた。何発が命中したのかは日向からは判然としなかったが、炎上しつつ速力を低下させていることだけは確かであった。


「面舵に転舵。伊勢の右舷側を抜けろ」


 このままでは追突すると感じた松田千秋艦長は、そう命じた。

 ここで転舵すればこれまで得られた射撃諸元がすべて無に帰すことになるが、やむを得なかった。

 炎上を続ける伊勢は、依然として主砲射撃を続けている。使用可能な砲塔は二基に減少してしまったようであるが、それでも敵戦艦に命中弾を与えていた。

 松田は、そこに伊勢乗員たちの執念を見るような気がしていた。

 たとえ旧式の三十六センチ砲搭載戦艦とはいえ、これまで米戦艦との決戦に備えて猛訓練を繰り返してきた者たちである。

 一門でも主砲が健在な限りは、彼らは砲戦を続けようとするだろう。

 日向は、炎上する伊勢の脇をすり抜けるようにして彼女の前に出ようとする。

伊勢の後部は、廃墟のようになっていた。主砲の砲身の一部がねじ曲がり、あらぬ方向を向いている。

 その刹那、伊勢の艦橋に光が瞬いた。発光信号である。


「『貴艦ノ奮闘ヲ祈ル』、か……」


 それを読み解いた松田は、悔しさを押し殺した声でそう呟いた。

 と、敵二番艦を日向のものでも伊勢のものでもない水柱が包み込んだ。

 その色は、夜の中で吊光弾の明かりを反射して鮮やかに輝く黄色。


「陸奥です! 陸奥が、目標を敵二番艦に変更しました!」


 報告する見張り員の声には、安堵と歓喜が滲んでいた。そして、報告はさらに続く。


「敵一番艦、速力低下の模様! 敵二番艦、敵一番艦を避けるべく転舵していきます!」


「よくぞ……」


 松田は、砲術家の一人として純粋に陸奥の勝利に感銘を受けていた。

 陸奥は四十一センチ砲搭載戦艦として、長門と共に二十年近くにわたって帝国海軍の頂点に君臨してきた。その彼女が、米新鋭戦艦との一騎打ちを制し、今また敵二番艦を相手取ろうとしているのである。

 これで、状況は逆転した。

 日向も新たな射撃諸元が整えられ、再び砲撃を開始する。


「伊勢の仇だ、決して逃がしはせん」


 松田は射撃の振動で震える夜戦艦橋から、じっと敵二番艦を見つめていた。






「敵一番艦落伍、敵二番艦、炎上しています!」


「やはり、夜戦となれば最後のケリは我らが付けねばなるまい」


 見張り員の声を聞いて、近藤信竹中将は唇の端を吊り上げていた。

 愛宕以下四隻の重巡は、米戦艦を護衛する敵駆逐隊を撃破して二隻の米戦艦まで七〇〇〇メートルの距離にまで迫りつつあった。

 摩耶が第三砲塔を使用不能にさせられるなど、敵五インチ砲によって多少の被害は発生していたものの、第四戦隊は全艦が健在であった。


「愛宕目標、敵二番艦! 高雄は落伍しつつある敵一番艦を目標とせよ! 距離五〇にて魚雷発射始め!」


「宜候! 距離五〇にて魚雷発射始め!」


 愛宕水雷長・小山田正一大尉が復唱する。

 まずは愛宕と高雄で雷撃を敢行し、それでも撃沈に至らなかった場合、摩耶と鳥海で止めを刺す。近藤はそのように考えていた。

 陸奥以下三戦艦との砲戦で、米戦艦の甲板上は滅茶苦茶に破壊されてしまったのだろう。

 第四戦隊の接近を阻止するための両用砲の砲弾は、一発も飛んで来なかった。


「……」


 近藤は、ちらりと炎上する伊勢を見遣る。

 十六インチ砲を搭載する米新鋭戦艦との砲戦という圧倒的に不利な状況にもかかわらず、伊勢の果敢な砲撃は確かに第四戦隊が雷撃を敢行するための進路を切り拓いたのである。


「仇は、必ず取るぞ」


 最早、近藤の頭には後方の損傷空母が戦場海域を離脱するまでの時間稼ぎという当初の目的は消え去っていた。

 ここまで来た以上、第二艦隊の将兵の献身に報いるためにも、米戦艦への雷撃は成功させなければならない。


「距離、五〇!」


「魚雷発射始め!」


「てっー!」


 小山田水雷長の号令一下、愛宕の左舷に備えられた二基八門の魚雷発射管から圧搾空気の音と共に九三式魚雷が飛び出していく。

 愛宕から放たれた八本の雷跡は、真っ直ぐにノースカロライナに向けて突き進んでいった。

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