自分定義

「あれ……ここは……?」

「空真君!」


 目が覚めたのはベッドの上、隣にはありすが座っていた。


「良かった……空真君、急に倒れて……」

「そうなの……か」


 休み時間に急に倒れ、悠翔とありすに連れられて保健室へと運ばれたらしい。悠翔は授業があると、先に戻ったらしい。


「そっか……ありすは……」

「そんなの……」

「心配だから残らせて欲しいと頼まれたのサ」


 ベッドを囲うカーテンがバッと開け放たれる。


「す、涼風すずかぜ先生、言わないで下さいよ……!」


 保健室の主である保険医、涼風先生によると、過度な疲労と寝不足が原因で倒れたとの事だった。


「疲労もここまで来れば重体だ、本来ならば即刻帰らせしっかりと休ませるのだが……」

「ダメです! 帰ったら絶対勉強し始めますから!」

「……と、可愛い可愛い彼女さんからのお達しだ、今日一日ここに居てもらうぞ」


 そんじゃお大事に、と言い残して涼風先生は戻っていった。過度な疲労と寝不足、心当たりはもちろんあった。ここ1ヶ月、毎日勉強をし続けていたからだ。眠いと思っても頑張り続け、寝るのも深夜だった。


「無理はしないって……言いましたよね?」

「……はい」


 普段からですます口調な分、こういう時は格段に怖かった。というか実際めちゃくちゃ怒っているだろう。それに、昨日も悠翔とありすに心配されていたばかりだった。


「成績が落ちてるからって言ってたけど、点数は伸びてます」

「……でも」

「でもじゃない……! 何をそんなに思い詰めてるの!」


 思い詰めてる、言われてみれば確かにそうだった。母に叱られ、もっと勉強をしなければと思い続けていた。


「……実はさ、母さんに怒られてさ……」


 事の経緯を話した。自分定義プログラムを受けたこと、その結果両親に見放されていること。その間ずっとありすは自分の手をぎゅっと握ってくれていた。


「そう、だったんだ……」

「ごめん、こんな話……」


 そう言いかけた途端、ありすに抱き寄せられた。


「ううん、いいの。空真君は充分頑張ってる、それにさっきも言ったけど、順位が上がってなくても成績自体は上がってるから」

「ありす……」

「それにね、私は勉強が苦手だから……いつも助かってるんだよ? 勉強を教えてくれて……でも、でもね?」


 ふっと手が離され、今度は自分の胸元にぽすんと重みを感じる。ぐすんと涙を流しながら、ありすは言葉を続けた。


「……」

「それでも、無理はして欲しくないです。だって……大切な人なんですから」


 ここ最近、連絡を取ることもあまりなく、学校で話す口数も減っていた。どうやらそのせいで、色々と辛い思いをさせていたようだ。


「……ごめん」

「……約束して下さい、無理しないって……」


 そう訴えかけるありすを、そっと優しく抱きしめる。


「うん、今後は無理しない。辛い思いをさせてごめん」

「……はい、させないでくださいね?」


 こちらを見てふふっと笑うありすに、今度はこちらからその手を取っていう。


「ありす、もし良ければ……」

「ひゃい?!」

「学園、一緒に回らないか?」



 その後、ありすがこくんと頷くまではたっぷり一分ほどかかった。

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