第15話『火葬』⇨『cremation』

 ダニディスが、そう呟いた。


 そして、ニヤリと笑った瞬間、空気が張り詰めた!


 それは一瞬のことだった。気づけば、マハロの姿は何処にもなく、莉拝は独りでその場に取り残されていた。目の前にいたはずの老人預言者は消え去り、辺りは砂塵に包まれて視界が悪い。しかし、莉拝の五感が告げる、何か異様なものが接近してくる気配。


(なんだよコレ?!)

(ヤバいって!!!!)


 莉拝の脳内では危険信号が点滅し、けたたましさで鼓膜が震えた。

脳髄の奥底から湧き出るようにアドレナリンが出まくり、筋肉が硬直している。


 次の瞬間、ダニディスの拳骨が莉拝の腹部へと打ち込まれた。それはまるで隕石が衝突してきたかのように重たく、途轍も無い威力。身体中の血液が逆流しそうになるほどの衝撃だった。


(う、そ……だろう……?)


 あまりの痛さに、息ができない! 胃液が喉元までこみ上げてくる。

 莉拝は、なんとかそれを吐き出さないように我慢した。



 このとき莉拝の脳は、並列パラレル思考で、2つの単語を思い浮かべていた。



 ――絶体絶命――。



 それは【死】を意味するときに使われる、お決まりの言葉だ。


死の直前に見ることがあると云われる「走馬灯」現象。

近年では、海外でいろいろな意見が交わされているが、死の直前に見るのだから、「見た」と現世に伝えてくれるような便利な機能は存在しない。


さらに、奇跡的に【生】へと転換した人が「オレは見た」と発言した人がいても証明が出来ないのも事実だ。カナダの研究チームが「死の前後30秒間に、記憶を呼び起こしている時と同じ脳波が計測された」と発表したのが、どこまで信憑性が高いのかも確認のしようもない。さらに、いま自分たちが過ごしている日常が「走馬灯」現象に一部である可能性も否定はできる要因が存在しない。


 

 ――壁役――。



 壁役とは 味方を【守る】キャラである。 攻撃役のキャラの前で体力が続く限り、 後方の攻撃役のキャラを【守る】存在。 特殊な攻撃を防いでくれるキャラもいるのだから、たいへん有難い存在である。


 もちろん。莉拝は、マハロに 後者を 期待していた。

 まさか、瞬時にいなくなるなど、予想外でしかない。


「幽霊だったら、【ポルターガイスト】のひとつでも起こして、助けてくれよな」

などと愚痴りつつも、腹部を撫でる。


 常人なら間違いなく内臓破裂であろう一撃も、莉拝にとっては、たった数秒で治ってしまう。この一撃が、もし、頭部へと放たれた拳骨であれば、脳が飛散してしまったかもしれない。そうなれば、「走馬灯」なんて見れたものではないだろう。


 莉拝の感じた‐絶体絶命‐が、紙一重で通り過ぎた瞬間であった。


「あ、あでぇ~?

 お、おまえ。なんで死なない?」 ダニディスの疑問は至極当然であった。


「も、もし、…がして。

 お、おまえも『天使の肉』、食べたのか?」


―――天使? また、天使かよ。


(そもそも、ここは異世界なんだろ?

 なんで、地球上の 空想世界が あたり前のように出てくるんだよ!)

(でも、あいつが天使の輪っかぽいのを頭上に乗せたとき、翼が生えてたな。)

(いやいや! そもそも、ここは異世界なんだろ? 天使だなんて…)



 莉拝の混乱は、堂々巡りを繰り返していた。


(やはり、セゾンの騎士が鍵を握っているのか?)


 ゆっくりと、拳を握りしめ、莉拝はダニディスを睨みつけた。

――が、相手の顔が怖すぎて、情けなくも半笑い気味になっていた。




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