第12話 [永代供養] は 日本くらい です

 預言者 マハロは、手に持った1本のモリを天高く、黒い雲に向けて投げ放つ。


 シャチのような鳴き声が微かに聞こえ、黒雲が散っていく。

 [ 蜂 ] と [ハエ ]を掛け合わせた魔物が、スッと消えていった。


 莉拝りはいは 誰かにずっと見られているような感覚が 遠のいていくのがわかった。HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)気質ではなく、ガチの霊感持ちであった。あの魔物の存在が、ますます理解できないでいた。


「さて。どこから話せば、よい物か……」


 預言者 マハロは、黒々とした口髭くちひげを触りながら 考えを巡らせる。


「先ず。はじめに伝えおかねばならぬ事は、このことだろうて。


 この世界をお創りなさった神々たる『大神オオガ七星ヒチセイ』様方は、

 すでに、お隠れになっておられるであろう―――」



 (神さまが…いない……?) 莉拝は、逡巡した。



「世界の崩壊は、このときより始まった。

 すべては、仮面騎士サンクスの策謀さくぼうであったのだ。

 我らが魔王を打ったときには、すでに彼奴サンクスと戦う術を失っておった。


 かの戦いで、生き残った『剣士 スパース』だけが、希望であった。

 建国を促し、軍隊をつくり、ドラゴンらと盟約を結んだ。

 彼奴サンクスとの決戦には、神々が お残しくださった 武具までもちいたのだが……

 ふたりの斬撃が、ぶつかり合った何度目かのときに……消えてしまったのだ。

 彼奴あやつも……スパースも……


 いまだ、世界の崩壊は ゆっくりと 進んでおる」



 トスン、モリ が地面に刺さる。



 ―――タイミングを見計らったかのように、

    主人の元へとかえってくるペットのように、


 マハロが手を伸ばせば 届く位置へと。


 預言者は ニヤリ とわらった。



「わしの肉体は滅んだが。

 こうして、霊体となって 機が熟すのを 待っておったのだ」


 モリを抜き取り、


「勇者が誕生することは、2度とないと思っておったが。はっはっはっ」


 頭上に持ち上げる。


 莉拝は、思わず神さまに願ってしまった。


(どうか、この笑い声が奴らに聞こえませんように)、と。


「さて、勇者殿。これより、どうするか?」

「どうする……って?」


「さよう。ここは、住宅街に近い [貧民街] におられようだが……。


 選択肢は2つ。


 奴らを殺して、囚われた者たちを救うか? それとも……、

 人殺しを良しとせず。ひとず逃げおおし、その後に国王へ法創造を願い出るか?


 どちらにせよ。今のお主では、まるで歯が立たんだろうがな。はっはっはっ」


 預言者 マハロの爽快な笑い声が、莉拝の恐怖心を和らげていった。



 状況は、最悪。



 ―――だが。希望が、手に届きそうな気がしていた。



 莉拝は、大きく息を吸い込んで、預言者に訊ねた。


「アンタ、戦えるのか?」

「はっはっはっ。

 勇者殿は気でも狂ったか? わしは、預言者だぞ」


 キメっキメの預言者に、莉拝は大きな達成感を見出した。



 今なら、人を殺しても平気だと思う、と―――。


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