第11話 [遺骨] は カビ やすい

 ―――静寂は、一瞬のことだった。



『人狩り』が、ひとり。また1人と姿をあらわした。


 男たちの体臭が、鼻につく。醜悪というよりも臭悪とでもいうべきか。

サーベルを構える者や、鉛で作られた [ 鎖 ] を振り回す者がいる。

その後ろには、さらにヤバそうな奴が見える。


 莉拝りはいは、[フェズィーゲルト] を巻きつけると、急いで裏路地に逃げ込んだ。振り返ると、リーダーとおぼしき巨漢へ、衛兵らしき者がたずねている。


「ダニディス様。女が見当たりませんでしたが、あの者は如何なさいますか?」


「でっひっひっひ。ひさしぶりの上物だ。殺さず捕まえろ。とくに女は…」



 体中にできた黄斑を掻きながら、臭悪な巨漢の口元から、涎が垂れおちる。


すばやく巨漢に頭を下げた 衛兵らしき者が、『人狩り』を鼓舞しはじめる。


「いいか! おまえら! 抵抗するなら手足の ひとつ くらいなら切り落とせ。

 だが、必ず 生け捕り にしろ! ダニディス様が、お喜びになる!」


 ◇


 連中が、すぐには追ってこないを確認した莉拝は、頭上を見上げて[ 太陽 ]を探した。しかし、密集した建物が邪魔をして見つけられないでいた。


「くそッ。何なんだよ、この街は……」


 建物の数と比例しない人口密度に、嫌気がさしていた。

大通りに出れば、[ 太陽 ]を見つけやすいが、どこに敵がいるのか分からない。

では、街のひとに 訊ねられないものだろうか?


 ―――そう思うも、誰ひとり見つけられないでいた。



 静寂が、自分の足音を響かせた。まるで、自分の位置を知らせるかのように。


 そのとき、あることに気が付いた。それは、自分が履いているクッション性の高い靴。その音が聞こえるなら、相手の足音なんて特に聞き取りやすいのではないか?


 莉拝は立ち止まると、辺りの音に耳をすませた。

あちこちから悪臭がする。気を抜くと、そちらに意識が引っ張られてしまう。


 遠くから、虫の羽音が近づいてくる。

莉拝は、音のする方へ。裏路地から大通りの方へと息を殺しながら近づいていく。

危険を感じつつも、確認しないという選択肢がないことを 本能が 感じ取っていた。


 路地の隙間から、少しだけ顔を出した。そこには、手のひらサイズの虫が飛んでいた。[ 蜂 ] と [ハエ ]を掛け合わせたような、嫌悪感が脳をいずるような生き物。


 それが、ゆっくりと。辺りを監視するかのように、何匹も飛んでいる。

未知の生物への恐怖と、孤独からくる焦燥感が、絶望を運んできた。


 感情と向き合うことができず、腰が 地べた へ崩れ落ちた。


「な、なんなんだ。ありゃ……」



 震えがとまらない。


 ルトアから貰った [フェズィーゲルト] を巻いた左の手首を強く握った。


「助けてくれよ、神様―――」


 

 そのとき、[フェズィーゲルト] が淡く輝きを放った。


 光は徐々に形をつくり、フードを被った [老人 ]へと換わる。

投影されたような其れは、ゆっくりフードをとった。



「わしは、預言者 マハロ 。かつて、勇者と共に魔王を倒した者だ」



 


※ 後から知る事となるのだが、この地域の人の靴底は、何重にも [ 皮を重ねて ] 作っている。つまり、ヒールや革靴のような高い足音は、鳴らない。








 

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