第4話 葬送と安穏

 観世 莉拝は、神様から『聖剣エクスカリバー』や強化された肉体などを得た。それと、ピンチの時のあらゆるサポートを約束させた。その様相は、「ヤクザのようであった」と後に語られる。


 花牟 心咲は、紫外線に強い肌。腸活しなくても健康を維持する身体を手に入れた。「『美』への追及は果てしなく、『フリル』への妥協も一切なかった」と後に語られる。この世界に、“美魔女” が誕生した瞬間であった。


 

 ◇



 ―――黄昏の森。


 その昔、騎士団も薬師たちも避けて通る危険な森があった。

魔獣が住みつき、様々な奇病が発生する過酷な野山フィールド。過酷な生存競争の中で生まれた凶暴な魔獣を『大神オオカミサマ』と云うにようになり、いつしか、街やふもとに降りてこないようにと供物くもつを捧げられるようになった。


 その供物くもつが、亡くなったばかりの人間の遺体であった。


 この世界では『風葬』が一般的であった。屍肉を野生動物に食べさせるものは[鳥葬]、[獣葬]などと呼ばれる他、こういった魔獣に食べさせるものを『捧葬ほうそう』と呼ぶようになっていた。


 黄昏の森では、魔獣たちのテリトリー抗争が激しく、絶えず頂点の入れ替わりが繰り返されていた。治安の悪化を憂えた時の「王様」は、親友である「ドラゴン」へその討伐の依頼をした。


 勇んだ「竜」は、炎の吐息ファイヤブレスで森を焼き払ったとされる。鎮火には七日七晩かかったとされる。その光景をみた「王様」は、赤らむ夕日になぞられて、‐黄昏の森‐と名付けられたとされる。


 ◇

 

「―――それが、半世紀ほど前の話だ。野焼きされた山は、肥大な土地となり、人々に恩恵をもたらした。だが、[習俗]となった『捧葬ほうそう』は未だに続き、街人は祭壇さいだんをつくり、そこへ遺体を安置するようになってしまった」



 セイ・ルトアは、一気に説明する。

 時折り、オレンジ色の髪が風に揺られ、炎が揺らめいているかのように見える。



「腐敗した遺体は、長期間放置されると溶けて血液や体液が染み出す。そうなれば、細菌やウイルス、寄生虫などの病原体が体内に入り込み、繁殖を繰り返す。

 知識のない者が、防護服も着ずに祭壇へ遺体を運び込むと、感染症に掛かり発熱や嘔吐、下痢などの症状をもたらす病気に掛かってしまう」



 淡々と状況を説明するルトアに、莉拝は驚いた。


「アンタ、凄いな! どこで、そんな知識を手に入れたんだ?」


「馴れ馴れしい、人間め。敬意を示す言葉を使え。

 それとも、貴様ら下等種は[天使]には敬意を払わない決まりでもあるのか?」

「へぇ。アンタって、天使様だったのか。道理で神々しいわけだ」


 ルトアは、莉拝を睨み付ける。まさか、この人間の提案によって自身が下界へ降ろされる、とは夢にも思わない。しかも、人間の世話係を任されるなどとは。どんなに感情を殺そうとしても、屈辱が莉拝への当たりを強くさせる。


 方や、莉拝は笑顔を絶やさず、営業トークも全開だった。


 いまの彼は、幼少期より念願だった変身アイテム [ネクタイ] を神様から貰えたことで、上機嫌だった。ちょっとしたいやみやさげすみなんて、右から左だったのだ。


「あ、あの! セイ様!」

「気安く我が名を呼ぶな」


 ルトアは、心咲にも当たりが強くなる。


『連帯責任』とまではいかないが、許せない。神命の行方も気になる。

どれ程の年数ときを要するのか、まったく見当がつかない。


「では、何とお呼びすれば宜しいのでしょうか?」

「ルトアと呼ぶがよい」


「それでは、ルトア様―――

「いやいや、それも変だろ」


 間髪を入れず、莉拝が出しゃばってくる。


「やっぱ、『お兄ちゃん』がんじゃないか?

 ねぇ、天使さま」


 と下手な営業トークで場を和ませようとする。

 互いに信頼関係の構築は早い方がいい。ならば、相手の好きなシチュエーションをゴリ押しするに限る。莉拝は、そう。全力投球だった。


「あ、あの・・・。観世あきときさん―――」


「チッチッチッ! ここでは、『CEO』と呼びたまえ!

 どうせ、うるさいオヤジもいねぇし、会社もち上げておかないといけないしな」


 心咲は心底嫌そうな顔をした。


「だまれ、ゴミ」

「そうですね。ゴミさんは少し黙っていてください」

「お、おい…。『GOゴー MEミー』ってなんの略称なんだよ!」


「ご自分で考えてください!」


 心咲とルトアの信頼関係は、少しながら構築していく。ただひとりを除いて……。


「こんなハズでは・・・」 莉拝はうめいた。


自身の意に反して成り立っていく世間せけんに。世の中の仕組みを恨みながら。




 ―――かくして、ふたりの異世界人と天使の旅が始まった。


 剣と魔法が存在するファンタジーな世界で、「放置させる遺体」と向き合っていく事となる。厳しい旅の中で、直感と論理で『強く生き抜け』莉拝! ふたりの信頼を得るには、まだ先が長いぞ!―――



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