第3話 葬儀屋さん、異世界に召喚される!?②

 観世あきとき 莉拝りはいは、考えた。


『どうすれば、最大限の利益を得られるか?』


目の前にいる仮面を付けた男性を観察した。

こういった交渉事には不慣れにみえた。


 ならば、 “ぼったくれる” に違いない。


しかも相手は、自称・神様だ。

懐もたいそう広いに違いない、と莉拝は考えた。



 (遠慮はいらないな!)



 そんな『心の声』を受信してしまった花牟はなむれ 心咲みさきは、死を覚悟した。


「ぁ・・・。ぉ花畑がみぇる・・・」


か細い声が、真っ白な部屋をひとり歩きしていった。



――それが莉拝の脳内だったのか、自身の末路だったのか?――



 彼女は、世界大戦期に旧ドイツ軍と日本帝国軍によって共同開発された、少数精鋭の『エスパー』と呼ばれる存在だった。ひとの心を読める、呪われた血の家系。


 この事をアメリカ軍に知られたら、『みんな解剖されて、ホルマリン漬けにされてしまう』と幼い頃より父母に脅されて、『おくち、チャック!』と言われて育てられてきた。なので、勤務先は誰ひとりとして、そのことを知らないのだ。




―――…………さん。

   ハナムレさん! 花牟さん!」



 莉拝の心配そうな顔が、目の前に現れた。

男のひとに膝枕をしてもらったのは、生まれて初めての経験であった。

 これはこれで悪くない、とまんざらでもない顔をした。


 ――が、頭部の外傷であれば、的確な判断だったであろう。


 しかし、心咲みさきは心労による失神。


たしか、一般常識では、こうだったはずだ。

失神や貧血で倒れたときは、頭ではなく足の方を高くすべし。


などと思いつつも、お礼の言葉を伝えた。


「ところで、交渉の方はどうなりましたか?」

「いや、これからだ。

 請け負うにあったって、花牟さんの意見をまだ聞いていなかったからな」


 悪そうな顔で心咲の目をみた。つまり、ドヤ顔というヤツだ。


 この人は、いったいどのような環境で育ったのか?

 色々と訊ねても良さそうだ。


 それよりも、もっと気になる事をコイツは、口走ってした。

 心咲の意見が必要なときとは、どんな時だろうか?


 ――つまり、共同作業が確定の時である。


「ちょ、ちょっと待ってください!

 …嫌です。

 私、帰ります! 私、帰りたいですッ!!」


「じゃったら、報酬も半分じゃな」とシラケた顔で神様は云う。

「はぁ~? ふざけんな!

 それじゃあ、何か?

 俺の肉体改造も半分ってことか? スキル改ざんは?

 そんなんで『竜王』の討伐、出来んの? そんな中途半端でさァー?」


 いきなり、神様を相手にまくし立てる姿は、まるでチンピラだった。

「しらんっ」とこれまた、神様なのに、ただの駄々っ子のようにプイと顔を背ける。


「おい、花牟ッ! やるよな!

 そもそも、立場上は俺の方が上なんだから、これ業務命令な!」

「………―――え?」

「―――つまり、あの別嬪べっぴんさんも参加するわけじゃな………」


 ごくり、と神様の喉が鳴る。

これは、いったいどういうシチュエーションコメディなのだろうか?


 どう考えても、断れない雰囲気だ。

心咲は、無言で首を縦に振るしかなかった。


 これに ノー と言えるの存在は、きっと社長くらいだろうか。


 (肉体改造ってなに? ステータス?

 これじゃまるで、異世界転生ヒーローショーみたいじゃないですか)



 ―――花牟 心咲は、じゃっかんコジらせていた―――



「すまんな。相手にのせられてしまって、つい……」


 などと、潔く謝ってくる。声を詰まらせて、悔しそうに。

まるで、紳士の鏡のような姿であった。


 だから、心咲は複雑な表情で、莉拝の心の声を聞いていたのだった。

(いや、いい! むしろ、真の悪役とはこういう奴でなくてはならんッ!!)



「こいつ、死ねばいいのに……」と、彼女が言葉にしたかどうか?

その答えは、誰の耳にも入らなかったので、永劫に謎のままであった。



「まぁ。こっちの1年は、あっちの1日みたいなもんじゃから。

 気楽に、頑張っておいで」


 修学旅行に行く 中学生を 送り出すかのような、気楽そうに言う神様。


 このひと言に、花牟はなむれ 心咲みさきは恐怖した。


 こちらの世界での1年間が、地球ではたったの1日。

もし、その『布教』活動が2年以上も掛かってしまったのなら……。



『あら? 花牟さん、お肌が荒れてるわよ?』

『ちゃんとフェイスケアしてるー?』

『たった数日合わなかっただけで、もうオバサンじゃん!』


 ―――なんて言われるに違いない! きっと。



 観世あきとき 莉拝はいりも恐怖した。


 (これって、ドラ〇ンボールでいう精神〇時間の部屋じゃねえのッ?!

 じっちゃんにメチャクチャ、シゴかれるヤツじゃん!)


 ―――莉拝は、アホだった!



 各々おのおのが戦々恐々としている中で、神様は空気を読めずにいる。


「なんじゃ、お主ら? もっと喜んでも ええんじゃぞ。

 主らの世界でいうところの “異世界ライフ” 満喫ツアーじゃろ?」


 ‐満喫‐。


 なんでも、満喫と付ければ誤魔化せる時代があった。


 ―――だが、Z世代には通じなかった! 微塵も。


「地獄です」 心咲は、ガックリと膝をついた。

「なぜじゃ?」

「どうせ、化粧水とか乳液とか無いんでしょ? この世界。

 そんなの。そんなのって、お肌、荒れ放題じゃないですか!」


 心咲は、やや錯乱気味に叫んだ。

「私は、20代で結婚したいんです!!」


 神様は、精神に 50 のダメージを負った! ババーン!


「にっ、、、20代で、結婚じゃと?! ば、バカな・・・早熟過ぎじゃ!」

「あぁ。だったら、花牟さん。こっちで暮らせばいんじゃね?」


 すかさず、莉拝は切り返した。男性が必殺の『解決策、提案しました』だ!


「―――ち、違うんです。そうじゃないんですって!」

「あ? あっちに、彼氏いたんだ」


 心咲は、精神に 1,000 のダメージを負った! ‐毒にかかった!‐


「いません。この年で、恋愛のひとつもしたことがありません……」

「あ、ゴメーン。あー。なんか傷付けちゃったかー」


 心咲は、さらに 精神に2,000 のダメージを 負った! ‐会心の一撃!!‐


「そ、そういう観世さんは、どうなんですか?!」

「ハ? いやいや。俺、そういう興味ないし。

 ど、ドウテイが、カッコイイだろ…?」


 などと言いつつも、精神に5,000 のダメージを 負った! 瀕死の状態となった!



「すまんが、わしも話しに混ぜてもらっても構わんかのぉ?」


 モジモジしながら、神様が左手を挙手してアピールをする。

 恋愛トークを体験する、絶好のチャンスだ。神様は、恋愛に飢えていたッ!


「じゃあ、俺、変身ヒーローとか希望します。鍛えなくて良いんで」

「あ、ズルい! じゃぁ、私も●リキュアみたいになりたいです!

 フリフリを希望します! カワイイは正義です!」



 ―――神様は、いさみ足を犯てしまった! 



 のちに神は、ふたりにとんでもない悪戯をするのであったが、

これは、また別のお話しです。




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