第3話 スライムダンジョン

 ダンジョンの造りは入るごとに変わるから地図を作ったりはできなくて少し不便だなぁ、と思いながら私は1階層を歩いている。


 ダンジョン内の道は思っていたよりも広く、幅と高さが5mくらいある。

 ダンジョンによっては灯りがないと前が見えないくらい暗かったりするらしいけど、スライムダンジョンは壁が少し光っているから灯りがなくても大丈夫だ。


 それにしても……


「階段もベビースライムも全然見つからないよぉ!」


 私は不満の声を漏らしながらL字になっている道を右に曲がる。


「あ、行き止まりだ。なら今度はこっちに行こー!」


 違う道を進んだけど、また行き止まり。


「今度こそー!」


 やっぱり行き止まり。


「う〜〜!!」




 それから15分くらい私は1階層を歩き続けた。


「あー! 階段みっけ!」


 階段を発見した私は気分良く階段を降りていく。


「たぶんあれって……ー」


 階段を降りた先には薄い水色のぷにぷにしたベビースライムがいた。

 ベビースライムはこっちに見向きもせず、ぴょんぴょんと跳ねて移動している。

 隠密のおかげでこっちには気づいてないみたい。


 私は木刀を構え、ぴょんぴょんしているベビースライムにゆっくりと近づく。

 隠密があるから気づかれないと思うけど、慣れるまでは慎重にいくべきだ!


「ていっ!」


 掛け声と同時に木刀で思いっきり叩くとベビースライムは粉々に飛び散って魔石に姿を変えた。


「なんか、その、ごめんね……」


 ベビースライムが弱すぎてなんだか申し訳なくなってしまった。

 まあこの弱さなら殺されることはないから安心だけどね。


 私はそんなことを考えながら、落ちている魔石を拾ってリュックに入れる。


「ベビースライムの魔石は1個50円だから3個でアイスが1本も買えてしまう……!」


 30体倒したら10本、300体倒したら100本ものアイスが買えてしまう計算になる!

 ボスのスライムの魔石は1個300円だから1体で2本……!


「実はダンジョンってアイス天国なのでは……? じゅるり……」


 私はアイスを買うためにベビースライムを探しまわった。

 本来の目的を忘れている気がしなくもないけど、気にしないで探そう。




 2階層を歩き回って30分が経った。

 倒したベビースライムは最初のを合わせてたったの2体。


「ベビースライムどこにいるの……?」


 結局2階層での探索は諦めて私は3階層に移動することにした。

 階段を降りると、またベビースライムがぴょんぴょんしていた。

 確定イベントはボス戦しかないはずだから偶然だね。


「ていっ!」


 木刀で叩くとさっきと同じようにベビースライムが魔石に姿を変える。


「3個目ゲットだよ! この調子で後47体倒してクエストもクリアし よ〜!」


 50体分の魔石を売れば2500円だから、アイスが16本も買えてしまう。

 そんなことを考えてるんるん気分な私は順調に3階層の探索をしていく。

 スライムダンジョンはすごい平和なダンジョンだから安心して探索できていいね。

 どっちかというと私の方が平和を掻き乱している気がするよ……






 ★






 特に戦いと呼べる戦いもなく、私はボス部屋のある10階層まで来た。

 かかった時間はなんと5時間!

 ベビースライムを50体倒すだけでこんなに時間がかかるとは思わなかったよ。

 数え間違えとかしてたら嫌だから実際は55体くらい倒しておいたけどね。


 今の私のHPが少し減っているのはさっき階段で転んでしまったからであって、ベビースライムにやられたわけじゃないよ。


「ボスもサクッと倒してアイスを早く食べるぞ〜!」


 そう言いながら私はボス部屋の扉を勢いよく開けようとした。

 だけど、思ってたよりも扉が重たくて全然動かなかった。

 ダンジョン内だったから良かったけど、人前でしたらかなり恥ずかしいやつだ。

 でも私さ隠密あるから気づかれないけどね!


 まあそんなことは置いておくとして、早く扉を開けよう。


「よいしょっと……」


 ボス部屋に入ると扉が勝手に閉まった。

 部屋の真ん中にはベビースライムよりほんの少しだけ大きいスライムがいる。


「すごい弱そう!」


 スライムは私が入ってきたのに全く気づいていないみたいだ。


 私はスライムにゆっくりと近づく。

 近づいても全く気づかれない。


 今度は少し走ってみる。

 やっぱり気づかれない。


「気づいてよ!」


 私はそう言ってスライムに木刀を振り下ろすと粉々に飛び散って魔石に変わった。

 それと同時に頭の中に声が響いた。


『レベルが上がりました』


「あ、そういえば私レベルを上げるためにダンジョンに来たんだった!」


 アイスのことで頭がいっぱいで本来の目的をすっかり忘れてしまっていた。


「まあ、いっか!」


 ボスを倒すと報酬部屋の扉が開いた。

 開くだけコンビニの自動ドアより優秀な扉なのかもしれない。


 部屋入ると機会のような声がダンジョン内に響いた。


『ダンジョン初クリア 報酬:【治癒のポーション(大)】』


『ダンジョンクエストのクリアを確認』


『ソロ クリア報酬:【治癒のポーション(小)】』


『規定数討伐 クリア報酬:魔石(中)』


『モンスター未遭遇 初クリア報酬:【成長の指輪】(讓渡不可)』


『1分後、ダンジョン入口に転移します』


 声が聞こえなくなると、何もない空間から4つのアイテムが現れた。


「初クリア報酬? よく分からないけどラッキーだね!」


 まあ理由はそこまで気にしなくていいか。

 それより早くアイテムをリュックに入れないと転移が始まってしまう。

 ベビースライムの魔石が多すぎてリュックから溢れかけてるけどなんとか入りきった。


 部屋全体が光に包まれるといつの間にダンジョンの入口に移動していた。

 入口にいたら人にぶつかるので隅っこに避難する。


「レベルも上がったし、ステータスを確認しよう」


 私はステータス画面を開く。


 ――――――――――――――――――――――――

 穂刈 琴音ほかり ことね 16歳 レベル2 スキルポイント 10

 状態:隠密

 HP:12

 攻撃力:11

 防御力:12

 固有スキル:「隠密」

 スキル:なし

 装備:なし

――――――――――――――――――――――――


「ステータスが少し上がったね。あとスキルポイントが増えてるけど、 どうやって使うのかな?」

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