第7話

もう限界だった。やっぱり私は臆病者だ。

もうだめだ…。

思い切って決心する。

「先生………。」



全て。全て話した。



自分を大事にして。

私はあなたにそんなことしてほしくない。


あなたが大事だから――――――



何、してんだろう…。

親でもない、家族でもない人が私のことを大事に思ってくれていた。

言葉だけで見たらありきたりだった。

それこそ綺麗事に近い言葉。

なのに不思議と信じることができた。

何かが箱にストンと落ち着く、そんな感じ。

いつの間にかどこかに引っかかってモヤモヤしていたものも消えていた。


なんでだろう…。


今までだったらそんな綺麗事ばっかり並べられてもって何も感じなかったと思う。

大好きな人に言われたからだろうか。

自分が弱っていたから…?


たぶん、違う。

何となく分かった気がした。

私の心が開かれたのだ。本当の意味で。

昔、大人に全てを裏切られたと感じた時、

とてつもない怒りを感じ、同時に宛てのないことも悟り、心中に押しこめた。

心は完全に閉ざした。


いや、その心が開かれた、というと違う。

怒りは今でも私の中に永久凍土のように眠っている。何と表現したらいいか…。



私の心の中にいる小さな女の子の心が開かれた。



その方がしっくりくる。うん、そうだ。

小さな女の子。

彼女の年はおそらく私の精神年齢に値する。

私が彼女をはっきりと見ることができたのは彼女が泣いている時、私が辛いと感じた時だけだった。彼女はいつも泣いていて、泣きやんでいてもいつも不安そうな顔をしていた。

そんな彼女が、初めて笑ったような気がしたのだ。にっこりと。あどけない笑顔で。


あぁ、そうか。

改めて納得する。今まで私は彼女の心について考えたこともなかった。

彼女にも心があったのだ。それは私の心でもあるのだけれど、私は気づいていなかった。

だから笑ったのだ。


やっと気づいたね、気づいてくれてありがとう、と。



私はこれからも母はじめ、色々な事において傷つきダメージを受けるだろう。

また病んで自分を偽り見失うかもしれない。

でも私はもう今までとは違う。

例え家族でなくても、私のことを本当に大事に思ってくれている人がいる。

あの時私にあなたが大事だから、と言ってくれた先生はきっと、私のことを大事に思ってくれているから。少しずつでいいんだ。仮面を被ってたっていい。

信じられる人がたった1人でも。

1人でもいればそれでいい。

ただ、生きていこう。そう決めた。

どこかのドラマでも言っていた。

「死にたい」と思いながら生きてもいいんだと。

いつかまたくじけそうになった時は今回のことを思い出そうと思う。

きっとまた心の中の小さな女の子が笑ってくれるから――――――









         〈終〉

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The Mask Girl @yeRii00Lily

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