第19話 ジーナスとマクシミリアン

◆クライアス皇国皇城

皇王執務室

ジーナス視点


「父上、何故に私が謹慎させられるのでしょうか?まったく身に覚えが有りません。どういう事でしょうか!?」

「ジーナス、そなたは学園において、もっとも優秀な薬師を目指すハインシュタイン研究室に在籍していた生徒を無実の罪で断罪し、これを追放したな。ハインシュタイン研究室のバイセル講師から、抗議文が届いている。我が国が薬師の国である事を忘れたか、この愚か者め!」


「彼女……いえ、彼は、私の制止も聞かず、勝手に出奔しゅっぽんしたのです。今、行方を捜させておりますが」

「その事ではない。その生徒がたずさわっていた研究資料を、勝手に破棄した事が問題なのだ。研究室に関係する資料は全て皇国に帰属する物、器物損壊罪が適用されると知らなかったのか!」


「な!?」

「はぁ、お前は次期皇王になる身ではないのか?次期皇王を目指す者が、皇国の法律に疎くてどうする?バイセル講師には告訴を見合せてもらったが……」


「お待ち下さい!あの時、彼には毒物精製の嫌疑が掛かっておりました。研究資料は毒物精製に関する事の可能性がありましたので、処分した次第です。この件はケスラーやハーベルに聞いて頂ければご理解頂けるかと」


「だから『浅はか』だと言うのだ。研究過程の毒物など、研究員であれば当たり前だ。そんな事も分からんのか!ええい、もはや、お前と話す事などない、ここから出ていけ!」


「ち、父上?!」


バタンッ

く、部屋から追い出された!


謹慎だと!?

レブンを捜さねばならないのに、こんな所に居なければならないとは!



「兄上、大変ですね」


「マ、マクシミリアン!?」


マクシミリアン第二皇子、私の一つ下の弟。

その人好きのする甘いマスクと、皇族の象徴である金髪と碧眼を持つ。だが、側室の子である事から、私が皇太子としてリード出来ているが、その人好きする顔に似合わない政治手腕は、地方貴族を中心に一定の評価があり、父上も一目置いている。


「なんだ、マクシミリアン?何か言いたい事でもあるのか」

「いえ、ただ、何かと大変だなって思いましてね。知ってますか?皇国の北部で発生している流行はややまいの件」


「聞いている。確か、ケスラーの領地で発生していると」

流行はややまいは皇国の危機、本来は皇族が先頭に立ち、指揮すべきものです。まあ、今回は公爵領が絡んでいるので、公爵クラスにその対応を一任しましたがね」


「……何が言いたい?」

「いえ、何も。ただ、私も浮き足だつ貴族達の不安を抑える為に現地に赴くつもりです」


「な!?」

何だと!

皇太子である私が謹慎で動けない中で、第二皇子が現地に赴けば、次期皇王の器は第二皇子にありと、第二皇子派が叫ぶではないか!


「あ、兄上は謹慎中でしたね。早く謹慎が解ける事を祈っております。では」


タッ、タッ、タッ、タッ


「くっ!!」


くそ、屈辱だ。

こうなったのも、全てレブンが逃げ出したせいだ。必ず捜し出して、私の女にしてくれる。だが、その前にマクシミリアンを監視しなければ!

「カストール、いるか?」

シュタッ「は、こちらに!」


「うお!?、い、いつの間に背後に?」


「は、我らは皇国の影、いつ如何なる時も、皇族をお守りするのが我らの務めあります」


全身、黒づくめで現れた此の男は、皇国の隠密部隊【シャドウ】。彼らは常時、皇国の貴族や燐国を監視し、皇国に害を成すかの情報を収集し、父上に報告する事が主な任務だ。


「では、カストール。お前にマクシミリアンの護衛と、その周辺の監視を命ずる」

「……第二皇子の監視、で、しょうか?」


くっ、流石に父上が使っている実動部隊、なかなか鋭いところを突く。


「そ、そうではない。これはあくまでも、弟の護衛というこ」

「判りました。第二皇子の護衛、引き受けましょう。状況は逐次報告、これで宜しいですか?」


「あ!?ああ、頼む」

なんだ、急に快諾するとは?

だが、まあいい。これで弟の事や現地の状況が判れば、対策も立てやすい。


「では、これで失礼」

「待て!そうだ。もう一つ、頼みたい事がある。人捜しを頼みたい」


「人捜しですか?」

「年の頃は16のはずだが、実際より若く見える銀髪、碧眼の色白な少女だ」


「銀髪……皇国ではクロホード伯爵家だけが銀髪だった筈ですが、クロホード家に繋がる者でしょうか」

「余計な詮索はするな!貴様は言われた事だけをやればいい」


「承知しました。では、失礼」

ヒュンッ



「な!き、消えた!?」



いったい、どうやったのだ?

相変わらず、謎に包まれた部隊だ。父上の直属なだけの事はある。隠密部隊【シャドウ】、私の想像を超える能力集団なのかも知れない。


上手くすれば、レブンの発見も早いかもしれない。

待っていろ、レブン。

お前は必ず、私の妃になるのだ。


ふはははは!

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