第18話 立場と出発

◆王都レイテア子爵別邸

◇キャロライン視点


な、なんで、お姉様が此処にいる訳?

公爵家のご令嬢が、わざわざこんな貧乏子爵家に来るなんて、誰も想像できないわよ!


「あ、あの、お姉さま?その、学園には連絡してありますが、父がやまいで倒れまして、その、代わりに急遽きゅうきょ、わたくしが領主代理として、領の運営をしなければならず、その……」


「分かっているわ。その件は理解しているもの。それより、わたくしが此処に伺ったのは、のせいよ」


?」


なんなの?私は、お姉様が指し示す方向に目をやった。すると其処には、何故か別の馬車、それも最近開発されたばかりの魔道馬車【馬無し馬車】が二台、停車していた。そして、その【馬無し馬車】から降り立った二人を見て、私は愕然とする。


「!?」


は?意味分からないんだけど!??

何であの人達がいるの!


「あ、あの、なんで、あの方々がいらっしゃるんですか?」


「そりゃあ、二人とも今回は当事者だから、仕方ないわよね。貴女もだけど……」


え?当事者って、一体なんなのよ!?


「お嬢様、その、今、お嬢様は混乱されていると思いますが、当事者というのは、恐らく、流行はややまいの件かと……」

執事のカーネルが耳打ちしてくるけど、はあ?何で此処で、流行はややまいの話しが出るわけ?余計に分からないんだけど!?


「あら?随分と優秀な執事をお持ちなのね、キャロライン。子爵家の執事にしておくのは勿体ないわね」

「過分なご評価、有り難う御座います」


何で、カーネルがお姉様に褒められているのよ、私だって頑張ってるでしょ!

あ、いや、そんな事より、あの人達の事よ!

ああ、二人が此方にくるわ!

「お、お姉様!?」


「大丈夫よ、キャロライン。貴女の事は、陛下からもお墨付きを頂いているから」

「え、陛下?」

な、何で陛下まで、話しがいくのよ。お姉様、一体陛下とどんな話しをなさったの?

あああ、二人が私の目の前に!


「エレノアか、何故、此処にいるんだ?相変わらず神出鬼没だな」

「ケスラー、あなたも相変わらず、礼儀がなっておりませんわね。皇家を支える公爵家は、ファストマンとマデリアしかありませんのに」


「ふん、また何か、たくらんでいるんだろうが、いい加減にしたらどうだ」



ケスラー▪フォン▪ファストマン公爵令息は、私をチラ見しただけで、お姉様の方に行ったから良かったわ。でも、この人は……


「……キャロライン、久しぶりだ」

「あ、あ、あの、ハーベル▪フォン▪ブライト様、ご機嫌麗しゅう御座います……」


ハーベル▪フォン▪ブライト侯爵令息。

次期騎士団長で一時とはいえ、ジーナス様に近づく為に、恋仲の間柄に引き込んだ相手。爽やかな外面とは裏腹に、ネットリとした執拗しつようさがある、ある意味、関わってはいけない人だ。お姉様に攻略されなければ、どうなったか分からないわ。


「……元気だったか?」

「は、はい……」


「………………………」

「…………………っ」

うう、気不味きまずい。何を話していいか、言葉が見つからない。


「キャロライン、此方に」

ほっ、「お姉様!」


良かった、お姉様が呼んでくれたわ!私はハーベルから離れ、お姉様のところに向かう。

あ、ケスラーが走ってくる?

「待て、エレノア!まだ、話しは済んでないぞ!レブンの行き先は分かったのか?」


「分かっていれば此処にいませんわ。それより、そろそろ出発しないと、貴方がお父上に怒られるのではなくて?」


「……く、ハーベル!出発するぞ!!」


ケスラーは、ハーベルを呼びつけると、そのまま二人で【馬無し馬車】に乗り込んでいく。出発って?

「それでは、私達も出発しましょう」

「え?お姉様??どちらに行かれるのですか?」


「どちらにって、キャロライン。当然、貴女の領、レイテア子爵領よ」

「え、何故ですか?」


「はぁ、貴女、何も分かってないのね。あのね、もし本当に流行はややまいが発生しているとしたら、最悪だけど、貴女の領の村や町の住民を隔離しなければならないのよ。さもないと、皇国全体に流行はややまいが拡がる恐れがある。見なさい」


「え」

お姉様が指差した先、そこには軍馬に乗った大勢の騎士の一団がいた。

ええっ!?何なの、あの軍勢は!戦争に向かうようだわ!


「私が陛下にお預かりした第三騎士団よ。第二騎士団はハーベルが率いて、ファストマン公爵領に向かうわ。貴女は領主代理として、私に同行してもらうわよ。本来はジーナスの仕事なんだけど、あれはヘマをしたから謹慎中だしね」


「ええっ、私もですか??」

た、大変な事になってるの?わあっ、どうしよう。領主として何をしたらいいのか、ぜんぜん分からないわ!?


「お嬢様、私が付いて行きますので、どうぞ、ご安心下さい」


「カ、カーネル?!ああ、お願いね!」


カーネルが居て、助かった。

もう、何でもカーネルに聞いて動くしかないわ!

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