第15話 とある人々の話し合い

◆とある人々の話


荘厳な内装の宮殿に、一人の女性が歩いている。従者を連れたその女性は、美しい赤髪に煌びやかなドレス、凛としたその佇まいは、容姿端麗にして、高い気品を備えていた。


後に続く従者もまた、百九十センチはあろうか。茶髪で整えた髪は清潔感があり、質素ではあるが、ビシッと整えたスーツを着込み、前を歩く女性に、かしずきつつ後に続いて行く。

左右に騎士が守る、真っ赤な絨毯じゅうたんの先には、階段状の上座にある玉座に、整えた顎ヒゲを生やしたイケオジが座り、重厚な赤のマントに、豪華な装飾の軍服のような衣服を着ている。そして、その頭上には、沢山の宝石がついた、これまた豪華な王冠を被っている。

この人物こそ、クライアス皇国の支配者にして、ジーナス▪フォン▪クライアス皇太子の父親、ボルドー▪フォン▪クライアス皇王である。

ボルドー皇王は、女性が階段の真下まで来ると、手を上げて騎士達に合図する。すると、騎士達は一礼し、左右にある騎士の控え所に下がっていく。女性もまた従者に合図し、従者も一礼、部屋から出て行った。そして、ボルドー皇王と女性だけになった広い謁見の広間は、静寂が訪れる。

間もなく皇王は、口を開いた。


「公爵令嬢エレノア▪フォン▪マデリア、愚息、ジーナスの子守り、大儀であった」


エレノアは、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたままお辞儀をする。 いわゆるカーテシーだ。

「皇国の太陽、皇王様におきましては、ご壮健でなによりで御座います」

「儀礼はいい、今はそちと二人だけだ」


ニヤリと笑う皇王、エレノアは顔を上げた。


「では、皇王様。このたびは、わたくしの希望、婚約破棄を叶えて頂き、有り難う御座いました」

「ふむ、まあ、あのジーナスでは、そなたをぎょすのは無理であったからな。しかし、良かったのか?あのジーナス他、従者予定の者までをたぶらかした子爵令嬢を引き取る事にしたのであろう?」


「いえ、あの者は、わたくしの精神的パートナー。特に問題はありません」

「さようか、ならばその件は聞くまい。では、本題の方に移ろうか。課していた宿題の件、その後の進捗を聞きたい」


この皇王の発言を受け、一瞬、固まるエレノア。しかし、躊躇ちゅうちょしながらも話しだす。

「あの、その件ですが、その……研究は、ほぼ九割方、成功していました。それは研究者自身が、自身の身体で体現致しました」


ガタッ、目を見開き、思わず身を乗り出すボルドー皇王。

「なんと、九割と!?ほぼ、再現出来たと言うのか!!」

「ですが、その、あの」


言いずらそうに話すエレノアに、何かを感じた皇王、頭を抱え、大きなため息をする。

「はぁああ、うちの愚息が何かしたのか?」


「その、ジーナス様に、研究成果を……全て燃やされました。残っていた新薬も、お預かりした万能薬の残滓ざんしも、焼失しました」

「あの馬鹿が!?」


エレノアの言葉に、思わず立ち上がり、拳を握る皇王。

「それで、その研究者はどうした!?体現したのだろう!」


「申し訳ありません。体現した過程で逃走を図りました。現在、行方を捜索中です」


怒りに震えながら、玉座に座り直したボルドー皇王。エレノアを睨みながら、叫ぶ。

「何がなんでも捜しだせ!」

「ボルドー皇王陛下!?」


ボルドーの変わり様に、絶句するエレノア。


「その者が唯一のハインシュタイン▪レーゼリアの後継であり、万能薬の再現にもっとも近き者だ。皇国の全ての上級薬師に再現を依頼しても、誰も結果を残せなかった。その者だけなのだ。初めて進展を期待出来たのは!捜し出すのだ。是が非でもでも!」



◆◆◆



◆レブン視点


「うーっ、くしゅんっ!」

「レブちゃん、風邪?」


マイリちゃんがその、淡い茶色のクリクリした大きな目で、ボクを見上げてくる。この年頃の子は、皆可愛いけど、マイリちゃんは、中々可愛い方だ。将来が楽しみだね。


けど、おかしいなぁ?風邪なんか、ひいてないんだけど最近めっきり、くしゃみが増えた。

「むむむ、何か、鼻をくすぐる刺激薬草を、無意識に採取していたとか?ちょっと、薬草ストック置き場を確認しに行ってくるよ」


「はーい」

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