第5話 最強の襲来

 「いいか?この土地の鉱物は脆いのが多くてな。だから大抵の防具や武器は魔物の骨や甲殻から作るのが主流だ……だから多少見た目はワイルドな感じになる」


 「なるほど、それは別に気にならんが……それにしても少し軽装過ぎないか?肩回りや腰回りの守りしか無い様にも思える」


 ダラゴアスという天災級飛龍の希少な鱗を見事な加工技術とデザインセンスで防具として昇華している点は素晴らしいものがある事は認めよう。

 しかし大胆に開いた胸元とへそ、ヒラヒラで短い腰布、動き難いロングブーツ。

 これではせっかくの龍の鱗を用いた防御性能も意味をなさないのではないかと思ってしまう。 


 「でぇじょうぶだ。龍鱗には常時身体強化の上位バフがかかってる。それにそれ以上重量を増やしちまうとその剣が振るえなくなっちまうだろ……それにだ」


 店主が持ってきたのは装備の筋量上昇を最大限に活かした人の背丈を超える大剣。

 巨龍の尾をそのまま薄切りにして研磨したという無骨な見た目ながら鋭い切れ味を誇る業物。

 銘を【断罪の轟破滅塵剣ジャッジメント】と言うそうだ。


 「確かにこれは通常の人間では扱えまいな……そこまで計算された装備とは!恐れ入ったな……それになんだ?」


 店主は神妙な面持ちでこう答えた。


 「フルプレートは肌が露出しねぇからロマンがねぇんだ!!!!」


 「……あっそ。」


 ……その後も武具店で店主の熱い拘りを聞き流しながら装備を整える事数時間。

 ようやく解放された私は宿屋に戻って皆に装備をお披露目する事にした。


 「うおお、先輩超イカしてるッスよ……」「ですです!」


 「これは、悪くないわね……着衣プレ……」


 新しい装備の反応は上々だった。

 まぁ多少の恥ずかしさを我慢すれば体は羽のように軽いし、プレートメイルの様に蒸れる事もないハッキリ言って最高の装備だ。


 「さて、装備も整えたし、明朝ノルポ村を出るとしよう」


 「はい!」「おおー!」「ええ」


 ………………


 「それにして先輩のその馬鹿デカい剣マジぱねぇッス」


 「そうだろーかっこいいだろ!」


 ノルポ村を出てからの旅路は灰の砂漠と比べ快適なものだった。

 元々密林の降雨地域というのもあり辺りの灰は長い年月をかけ雨に流されており空気も悪くない。

 それに炭になった木々の下から草木が再生し始めている場所すら見受けられ、ここの自然は着実に復興の兆しが見えていた。


 「……それで母上これからどちらへ向かうおつもりで?」


 「お、そうだウチらこれからどこへ向かうんッスか?先輩は昨日別室で話聞いてたみたいッスけど」


 アリサが含みのある笑みでこちらを見てきたが無視だ、無視。


 「次はタリケスよ、ここには森を失ったエルフが新しい集落を築いていた筈よ」


 「はええエルフッスか……それにしてもナナさんって何でそんな地理に詳しいんッスか?」


 「……それは私がの前にドラコニアから逃げてきたからよ、言ったでしょ未来が見えると」


 ナナは少し考えるような素振りを見せた後にそう語った。


 「ありゃ、そりゃマズイ事聞いたッスね。すみませんッス」

 

 「……母上」


 「避けられなかった事象ですもの、気にしないでいいわよ」


 (なるほど、ナナがドラコニア目指す理由は故郷に帰りたかったから。そういう事なのか)


 そう考えると少しだけナナに同情するわね。

 

 少し重い空気になったせいかそこで会話が途切れ、静寂の時間が十分程流れた後に私は道の先で一人の人影を視認した。


 「あれは?黒い……鎧?」


 「……まずいわ!みんな離れなさい!」


 ナナの注意は間に合わなかった。

 気が付いた時には赤黒い瘴気の漂う漆黒の鎧を纏った騎士が剣を突き付けて私達の目の前に立ち塞がっていた。


 「……一つ、貴公らに問いたい事がある……偽りであれば命は無いと思え」


 (こいつはヤバイ!正しい答えを出さなければ殺す。そういう雰囲気だ)


 「……先手必勝ッス!」

 

 アリサは黒い騎士との距離を目にも止まらぬスピードで詰め、肘打ちを腹部に叩きこもうとするがこれは騎士が剣を地面に突き刺し阻まれてしまう。


 「チッ!」


 「上出来よ、アリサ!龍の激爪ドラゴンファング!!」


 今度はナナが防御行動取った黒騎士の隙を突き、がら空きとなった側面を魔力を纏った爪で強襲する。

 

 「ぐっ」


 ナナの攻撃は鎧に傷をつける事すら出来なかったが黒騎士をよろめかせる事に成功し、その一瞬出来た隙の間に私が剣を振り下ろす。


 「どおりゃああああ!!」


 「……おい、待て待て待て」


 黒騎士はよろめき倒れる直前に地面に刺した剣に手をかけ一回転しながら体制を立て直し私の振り下ろした剣を剣で受け止めた。

 完全に決まったと思われた連携攻撃は黒騎士の常人離れした体幹によって防がれてしまった。


 「なっ!」

 

 ……だがまだ終わっちゃいない。


 「メガファイヤボール!」


 レミナがそう叫んだ瞬間、鍔迫り合い中で両腕の使えない黒騎士の側面に巨大な火球が迫り衝突し、火だるまになった黒騎士がその場に倒れこむ。


 「やったか……ッス?」


 「おい!!!」


 アリサその言葉は禁忌だ!


 「あちゃちゃちゃちゃ!!いきなり襲ってくるってお前らは馬鹿か!もう!キャラが台無しじゃねぇか」


 「へ?」


 黒騎士はレミナの火炎魔法に少しもがいた後、こちらにものすごい剣幕で歩み寄る。


 「オレはなぁ!!ウォシュレット付きトイレ探してるだけなの!!それをいきなり攻撃しやがって……ちょっと漏らしたじゃねぇか!!馬鹿!!!」


 「へ?……あっ、すみません……トイレでしたらこの先まっすぐの村にありますよ……」


 「チッ……最初からそれを言えよ!……あっやべ、こんな事してる場合じゃねぇ!覚えとけよ阿保ども!!!」


 ……黒騎士はお尻を抑えながら神速の速さで村の方角へと消えていった。


 「……世の中にはウチらと比べ物にならない位のとびっきりの強者がいるんッスね」


 「……そう、だな」

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