第6話 帝国

 黒騎士の襲来(?)から数時間。

 街道の名残の先に城門や建築物が倒壊し瓦礫の山が積み上がった巨大な廃墟と化した都市が見えてきた。


 「あれは酷いな」


 「ふむふむ、見た感じ人がいそうな感じは無さそうですね。イル様」


 レミナは人よりも視力が優れているのか、手をおでこにかざし都市を一望してから答えた。

 

 「そうだな、近隣のノルポの民が寄り付かないという事は恐らくここに人はいないだろうな」


 「確かにノルポの人達はここに都市がある事くらい知っている筈……それでも敢えて都市を放棄しているという事は?」


 「これだけ派手に建物が崩れているんだ。多分魔物の巣になっているかもな」


 比較的原型を保っている建物も多いのに周囲には焚火の煙一つ上がっていない。

 火を使える者がいないのか……あるいはがいる可能性もある。


 「ここは廃墟を迂回しタリケスを目指すのが無難ッスね」


 私もアリサも帝国内の放棄都市には魔物の駆除や賊の掃討で何度も行った事がある。

 廃墟は危険という知識と経験からアリサは冷静に迂回を進言する。


 「私も危険なのは嫌ですのでアリサ様に賛成です」


 レミナは手を挙げてアリサに賛意を示す。


 「ナナは?」


 「直線ルートと迂回ルートの違いはたかだか十数キリ、ならば安全を買う方が安いと考えるわ」


 「……決まりだな、都市を迂回する。急がば回れだ」

 

 こうして私達は放棄都市を大回りしエルフの集落タリケスを目指して進むのであった。


 ………………


 ――同時刻ヤハテウス王城内にて。


 「……陛下、一週間ほど前ドラコニアへ派遣した第七騎士団ですが灰の砂漠に存在する洞穴にてと遭遇、周囲にはおびただしい量の血と第七騎士の装備が点在……全滅したとの速報が入りました」


 神官服を身に纏い長い髭が特徴的な小柄な老人は膝を地に付け、玉座に座すヤハテウス帝国皇帝に定期報告を行う。

 皇帝は表情を変える事なく老人に視線を合わせる。


 「表を上げよゴルディン、報告ご苦労……そうか、まぁ良い。第七騎士団は我が騎士団の末席、こうなるのも仕方なかろう」


 「とはいえ帝国直属の騎士は国の精鋭部隊、恐れ多いのですが陛下……やはり、砂漠を超えドラコニアへと向かうのは時期尚早なのでは?」


 「貴様は分かっとらんなゴルディン。こうして手をこまねいている間にも忌まわしき灰が国土を侵食し水は枯れ民は死に絶えておる……早く手を打たねば帝国は滅びるであろう」


  老人を一喝した皇帝はこしらえた髭に手を当て思案を巡らせる。


 「仕方あるまい。第一騎士を……キュリアを使え」


 「キュリア様を!それはなりません!それは最後の策の筈……武の天才であられる皇女殿下でも相手が悪すぎますぞ」


 皇帝の突飛な発言にゴルディンは思わず飛び上がりながら反対の意見を進言した。


 「俺も愛娘をわざわざ死地に送り込むような鬼畜ではない……護衛に第二騎士を陽動に第三騎士を使う」

 

 「なんと!第二騎士と第三騎士までもお使いになると?それでは軍事力の低下は免れませぬが?」


 「かまわん、どちらにしろ海と砂漠に挟まれたこの国に主だった敵対国などおらん……それよりも逐次投入は愚策、一人でも多くの騎士をドラコニアへ送り込んだ方が未来があると余は考える」


 皇帝の熱意のこもった発言に対しゴルディンは何も言い返す事が出来なかった。


 「……分かりました、すぐにでも第一第二第三騎士に通達致します。それと万が一を考え腕の立つ流浪人もいくらか手配しましょうぞ」


 「……よかろう、騎士達に必ず【】を持ち帰り国と民を救えと厳命せよ!!!」


 「ははッ!!」


 ………………


 「へくちっ!」


 「うわ!なんすか先輩、風邪ッスか?うつさないでくださいよー?」


 「風邪をひいた訳ではない。ちょっとくしゃみが出ただけだ」


 (誰かから噂でもされたのか……そんな訳ないか)

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