第9話 かくしておっさんはポーションの謎を思う

 

 ユナとロビンは冒険者ギルドの一角で、2つの草を眺めて座っていた。

 なお、眺めることすでに30分。

 そろそろ周りの冒険者もその異様さに、新興宗教かと疑いだす者も出てくる。


 久しぶりにロビンがギルドに顔を出したというからわざわざやってきた冒険者たちは次第に沈黙に耐えきれなくなっていた。


「はぁーーーーー………」


 急に破られた沈黙に冒険者たちはビクッとする。

 ロビンは軽く首を鳴らすとまた黙り込んだ。


「ロビンさん」


「んあ?」


「さっきからなんで黙ってるんですか?」


 ユナが聞く。


「それを言うならユナこそ、ずっと黙ってるけど何してるんだ?」


「いやロビンさんが黙ってるから……」


「え? 俺もユナが黙ってたから……」


 2人は顔を見合わせる。

 どうやらお互いの様子を伺っているうちに随分時間が経ってしまっていたようだ。


「あはははは」


「うふふふふ」


(いちゃいちゃするなら外でやれぇえええ!!)


 冒険者たちは心の中で叫んでいた。



 ……………



「で、この草なんなんですか?」


 冒険者のうち1人がロビンに質問する。

 それはそこにいる全ての冒険者の言いたいことを代弁したものであった。


「これか? これはな、ポーションの材料(仮)だ!」


「「「「ポーションの材料(仮)!!??」」」」


 冒険者たちは驚きの声を上げる。

 そして同時に納得する。

 こんな草からできてるポーションが不味いのは当たり前だ、と。


「これでポーションが不味い理由も判明しましたね!」


「……………」


 しかし、ロビンは冒険者の言葉を無視し、何かを考えていた。


「ユナ、ナイフ1本くれ」


「は、はい!」


 ユナがナイフを取り出す。


 ちなみにユナはナイフをコツコツ買い集め、6000本ほど所持している。

 その全てが彼女の懐から取り出すことができるが、そのカラクリは彼女のスキルにある。

 一応ロビンにステータスを見せるときは隠していたが、アレクとの戦いで使用されたのは暗殺術(対人)である。

 彼女の暗殺術はSランクとなっており、そのスキルの中に〈暗器袋〉というものがある。

 その性能は驚きの暗器であればなんでも無限に入るというものだった。

 ユナの〈暗器袋〉にはまだまだたくさんの種類の暗器が入っている。


 ナイフを渡されたロビンは、何をするのかと周りに注目される中、自分の腕に切りつけた。


「なっ、何を………!?」


「〈ステータスオープン〉」


 状況についていけない周りを放っておき、ロビンは自分のステータスを開く。

 HPが20減るのを確認して、目の前の草を


「「「「「「食べた!?」」」」」」


 食べたのだった。


「やばいやばいやばい! 昔からちょっと変わってたけど、ついに頭おかしくなったぞ!」


「え、こういう場合どうすればいいんだ!?」


「誰かーーー! 水出せ、水!」


 周りの冒険者たちは一斉に騒ぎだす。

 衝撃を受けて驚き慌てるもの、どう対応すればよいか困るもの、とりあえずなんらかの処置をしようと試みるものなど、様々だった。


「うっ………おえっ……ぐっ………」


「急に何してるんですか……はい、水ですよ」


 えづくロビンの背中をさすりながら、ユナはロビンに水を渡す。


「悪りぃ…………っぷはぁ! ……いやー、不味かった不味かった!」


 なんだか清々しい表情をするロビンに、呆れるやら怒るやら。

 冒険者たちにとりあえずボコボコにされたロビンは

 ぼろぼろになりながらユナの元に戻ってきた。


「それで、どうだったんですか?」


「ああ、そうだな。まず、回復量についてだが、だいたいアレで15回復する。この時点で既にキュアポーションCよりいい性能なのはまあ置いておこう」


 キュアポーションCの回復量は10。

 どういじったら回復量が下がるのか知りたいところだが、まあ味を改良………もとい改悪するのと、液状にして飲みやすくする過程で少し回復量が下がる、というのはまあ説明がいかないこともない。


「で、味の方なんだが、『最初の草』は苦かった。そして『ヤーナの水草』の方は……」


 そこでまた一呼吸おく。

 ロビンは、こういう演出が好きなのだ。

 実にめんどくさい。


「甘かった」



 ……………



 さて、ポーションが不味い不味いと言っているものの、ロビンは実際の細かい味についてはあまり言及しない。

 まあ理由は思い出したくもないからなのだが。


 基本的にポーションの味の中にあるのは、酸味と辛味と苦味である。

 あと独特の刺激臭が、味を絶望的にしている。


「甘い?」


 ユナどころか周りの冒険者もみな、不思議に思う。


 


 なんでもそうだが、ある味を抑えるためには、対極や遠い位置にある味を加えるのが基本である。


 苦味に対して、甘味、塩味。

 辛味に対して、酸味。

 酸味に対して、甘味。

 甘味に対して、酸味。


 なお、塩味は水を加えるなどして塩の濃度を抑えるのがもっとも有効である。


 こうして考えたとき、1つおかしなことがロビンだけでなく、料理できる者たちの間に浮かんだ。


「え、これ別に、酸味も辛味もいらなくね?」


「そうですね………」


 一部の冒険者たちはウンウンとうなずく。

 頷かないのは料理できないものだけだ。


「というか、理論上苦味も無くせますね」


 苦味を打ち消すのは甘味である。

 要するに「最初の草」の苦味は、言ってしまえば「ヤーナの水草」の甘味ともう少し、甘い何かを加えれば打ち消されるということだ。

 そう、この2つの草、味的な意味で実はとてつもなく相性がいいのだ。


「え、これもしかして………ポーションてうまく作れば………甘いんじゃね?」



 ……………



 とりあえずよく理解できていない冒険者たちに理解できている冒険者たちはわかりやすく解説する。

 もはや冒険者ギルドの中にロビンとユナの話を聞いていないものはいなくなっていた。


 そして、その解説が終わったところで、1人の冒険者がロビンに質問する。


「ところで、相性いいならなんでロビンさんは不味かったって言ったんですか?」


「そりゃ、だってこれ草だし」


 当たり前の話である。

 甘いからと言って草の青臭さは抜けないし、そもそも苦味と甘味は一緒に食べれば消えるというものでもない。

 若干の苦味と、甘みが混じった草に対して、間違っても美味かった、というほどロビンは味音痴でもない。


 というか「ポーションの味のせいで冒険者を辞めるほど」味にはうるさい方である。


「さて……いよいよ分からなくなってきたな」


 ロビンの当初の目的は、「何故ポーションが不味いのか」を調べることである。

 つまり「これほど好条件が揃っておきながらどうしてこんなクソ不味くなるのか」という疑問が新たに浮上してきたのだ。


 材料を調べたら解決すると思っていたが、それほど甘くなかったようであった。


「じゃあ、次どうしようか」


「とりあえず、今日は帰って寝ましょう」


 随分話し込んで、もう日暮れになっていた。


「まて、お前ら」


 冒険者ギルドを出ようとしたときである。


 ギルド長ミシュレが、2人に声をかけた。


「なんですか? ミシュレさん」


「1つ、言い忘れてたことがあってな」


 ミシュレにも忠告でもされるのかと、ロビンはなんとなく残念な気持ちになる。

 しかし、ミシュレの言うことは全く違った。


「薬草の金、置いていけよ」


「あ、はい……」


 それは励ましでも忠告でもなく、請求だった。

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元Sランクおっさん冒険者のポーション作成記〜まずいポーションしかないなら自分で作ればいいじゃない〜 馬場淳太 @babajunta127

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