一日一首(令和二年八月)

天高くわきあがる雲のかがやきにマダガスカルの産科医をおもふ


「健全な常識人」とは何なりや 〈現代短歌そのこころみ〉 を読む


競売で「スー」とよばれし恐竜は化石になりて人の欲を知るや


梅雨空にさんさ踊りのハレもなく蝉の声さへうつたうしき日々


イソジンで嗽をすればオーケーと大阪府知事はフェイクの極み


パソコンのリセット機能をふと妬む自(し)が人生に悔いはなけれど


梅雨明けの報聞かぬ間の‘立秋’に蝉も蛙も静かとなれり


梅雨寒し紅白に咲きゐしゼラニウムいま紅盛りて平家の世となる


梅雨空に遠花火の音の漠として花の半分雲の中なり


御盆とて油断めさるなコロナ禍ぞ老健施設に土産はいらぬ


歌舞伎町の七十五人が三百首の『ホスト万葉集』を上梓するとふ


夏の宵スマホ片手にベランダで短歌(うた)詠みをれば万葉の風


夕日を背に入道雲を見てゐしが右半分のみ虹のかかれり


乱雲にたまゆら虹の断片の架かれり今年の夏の思ひ出


みちのくは梅雨あけぬまま盆むかへ飛びかふ蜻蛉や先祖の霊ならむ


日のしづむ西方浄土へ掌(て)をあはせ「南無阿弥陀仏」と十度となへぬ


豆乳に乾燥果実に寒天に…愛くはへしが妻の車厘(じぇりぃ)ぞ


師と友へ宅配したき盛岡の涼風なりこのベランダに吹くを


八月の尖閣諸島に潜むとふ《夏の態勢》や悪夢でありたき


マスクしてパナマかぶりて出かければガラスに映りし怪しき人影


世のなかに「藤井聡太」の多かれど二冠を得しは唯一君なり


ただたんに長さきそひし政権の掉尾となるや〈コロナ払ひ〉で


原稿用紙百枚に書きこし繰り言の『ときをただよふ』 デンと机上に


コロナ禍にストレス多き医者稼業にうた詠みもの書くが癒やしなりけり


ありがたき受賞の報かな医者つづけ歌詠みもの書き百寿めざさむ


「〈要支援一〉おりた」と告ぐるメールには八十路の友の無念がにじむ


窓先の二匹の蜻蛉に亡父母を思ひ「いってまいります」と出勤するなり


アンテナに弥次郎兵衛のさまに翅をさげ蜻蛉よ今朝はなに惟(おもんみ)る


〈権力の私物化〉問はるる安倍首相「潰瘍性大腸炎」にて辞任を決意す


〈はだいろ〉といふクレヨンは名をかへて〈うすだいだい〉で今の世を生く


雷神と風神あばるる強き雨さぞかし秋の嚆矢たるべし

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