一日一首(令和二年七月)

「老衰は死への旅路」との哲学者ジャンケレヴィッチの言を諾ふ


韓非子の「唯々諾々」は読み慣るるに「諾」の訓読み「うべなふ」は今知りぬ


「コロナ禍中お見舞ひ申しあげます」を暑中見舞ひの代はりとなさむ


つゆぞらにズドーンと響く加農砲は自衛隊なすコロナ払いか


縦書きの『三人の卓子で一言』のブログを読むは妻と子らなり


指先で酸素飽和度測定し青柳卓雄氏の事績に謝さむ


ベランダの鉢にあふるる花たちへ「きれいよ」と妻褒む 雨の七夕


温暖化にて永久凍土の溶けながら危険な古代菌の現るるとも


牧村著〈漱石と鉄道〉に語らるる明治人らの活力すごし


先生と呼ばれ続けて半世紀 いまや符牒のやうなものなり


シン・ジョンア学歴詐称事件にて国民性の懸隔を知る


ぬばたまのベンタブラックより黒き〈究極の黒〉はブラックホールか


畢竟はわれらが選びし為政者なり非を論うても後のまつりぞ


選挙にて権利と義務とを果たさねば瑞穂の国やいつしか絶えぬ


世のなかに学歴詐称の蔓延れば言ふもの勝ちで選良となる


中国の数字を鵜呑みせぬやうに賢く磨くチャイナリテラシー


コロナ禍に民度の高さを自慢する太郎節には笑ふほかなし


幼女(をさなご)に祭の由来はだうでもよし鍋のかたちの笠かぶらせらる


突然の雷雨に子らは驚きて奇声を発し逃げまどふなり


「Go To!」とアベノトラベル張り切りて津々浦々にウイルス飛ばすや


品川教授九十六歳にて旅立たる吾も古希すぎしと告げざるままに


「人間は遺伝子はこぶ生き物」とふドーキンス博士の視点や愉快なる


満帆に〈老い風〉うけて「宜候(ようそろう)」と老い真つ盛り活躍盛り


〈コロナ禍〉の不安が起こす「CIAMS」なる珍症状に御注意くだされ


予言獣「阿摩比古」様のおはすなら早きコロナ禍退散を願はむ


一尋(ひとひろ)を地球の歴史に見立てれば文明史とは爪先ほどなり


添削を受けし歌など書きくはへ良し悪し問はずエッセイ綴る


三十年(みそとせ)まへ岐阜新聞の予言せし「伝染病」は今の‘コロナ’か


ああ歌人岡井隆は逝去せりその著『わが告白』に吃驚せざるや


「Go To!」に乗せられ出かけし岩手人 キャンプみやげがコロナ感染とは


老人言ふ「家で死にたい」を読み解けば「家で生きたい」の心なるらむ

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