一日一首(令和二年二月)

唐梅が一輪さきたる陽だまりの心地よきかな われ七十二歳


しろがねに秋田駒ケ岳かがやきて雪雲かろらかに碧空へ吸はる


自慢げに「晴れ女」と言ふ妻はいま雪つづくらしき津軽路の旅


ベルヌーイカーブ・ハサミを手に入れて「使いやう」とふ諺無用に


陽の差して‘晴れ女’の妻もどるらし夜来の雪のはや融けはじむ


朝日さす軒の垂氷(たるひ)の溶けながら眩しき盛岡 サングラス欲し


友人より「投稿見たよ」とメールあり「生きてる証さ」と照れて返信す


新聞の〈今日の運勢〉に促され妻を誘ひてランチに出かく


書きあげし八万字余のメモワール「脳の杖つき七十二段


雑誌特集「喜怒哀楽を詠む」ならば願はくは「喜」をさらに「楽」をと


老いはてて惚けはどんどん進めども喜怒哀楽は枯渇せずとふ


老いはてて彼も汝も誰か遠ざかり吾の誰かさへ何れ消ゆらし


東方を遠望すれば雪かづく早池峰の向かふに三陸の海


息子四十六歳「「誕生日おめでとう」のメール打ちその頃の自分を想ひてをりぬ


四桁の数字を記憶できざるは「物忘れ」以前の問題あらむ


幻視あらばレビー小体認知症 されば抑肝散を処方するなり


この媼は壊れしタイムマシンにて母でも娘(こ)でも変幻自在


婆さんに「この人だれ」と指さされ白衣を羽織れば「ああ先生」と


今昔の感覚あるゆゑのノスタルジー。今昔ごちゃまぜはディメンシアなり


食事してその満腹も忘れ去りすぐ食事欲(ほ)るこれディメンシア


人生の川にも澪木(みをき)を立つるごと刻舟とならざる一日一首を


長寿番付 横綱が大正生まれにて我七十二歳は幕下あたりか


たのしみは投稿謝礼の図書券をふところにしてペダル踏むとき


たのしみは黄金色なる金柑の甘く煮たるをかみしむるとき


いまはしきCOVID-19の感染は25か国7万人とふ


道内にて千六百校に休校の要請出さる‘コロナ’のせいで


新コロナウイルス感染のパンデミック目前に迫れど対策後手なり


古希過ぎてぼけなばぼけよぼけなりに日々の暮らしを楽しみゆかな


神棚に今日まで有効の免許証「優良」の二字こそ誇らしかりけれ

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