一日一首(平成三十一年四月)

古希すぎてこののち喜寿には軽く至り傘寿・米寿など経て百寿も超えむ


令和なる新元号をつたふ臣の「巧言令色、鮮矣仁」


令和なる新元号を機に読まむ 斎藤茂吉が『万葉秀歌』


アマゾンも〈在庫切れ〉とふ万葉集 読む人ふえよ歌詠みはさらなり


ひさかたの雲(クラウド)飛びかふメッセージはネット時代の相聞なるや


そにどりの青山の地に住すれば岩手山麓に〈老健カルモナ〉見ゆ


新居にて職場を見ながらとるスマホ、ナースの声が近く聞こえる


誕生は致死率百への一歩なり 生き抜かむかな己が天寿を


老いたれど医はわが天職ぞ こののちも地域医療のささへとならむ


別れ路の高架すべりゆく〈E5系〉心細げに青森へ向かふ


書斎より東北道をながむればベランダのフェンス上を車列が滑りゆく


朝日あび冠雪かがやく岩手山 四月十日の吾がジオラマぞ


最期まで思ひどほりに生きぬきし翁の手にはしかと酸素マスク


福寿草は我が留守の間に終はりしが岩木山今も白銀のまま


山茱萸が玄関先にて迎へ呉る 主(ぬし)留守の間に津軽にも春


沖縄出なれば「めんそ~れ!」と声をかけ〈支援相談員〉の辞令書を渡す


性差別なき世の基準どこに置く 男と女の中間あたりか


「南無御襁褓不要」と唱へ最期まで生活意欲の増進あらまほし


十階のベランダより高きプラタナスよ早く目覚めよ時は春なり


旧陸軍騎兵第三旅団跡に遊ぶ子供らの叫声(けうせい)さかん


妻も古希、ベランダをカフェに祝はむか紅茶の受けはガトーショコラで


インバネスコートの祖父が背(せな)に見き弁護士然たるノブレソブリージュ


見おろせば忽然と満開の桜木は丸き白頭 風なでてをり


「這えば立て、立てば歩め」は親心。「骨盤を立てる」が介護の心得と知れ


消防士ら訓練中ならん高階より見おろせば遊具に遊ぶ児らのごとし


はや三月(みつき)否まだ三月なる歌の道。続けてかならず辞世を詠まむ


水曜日の朝礼にて読む我が秀歌、いないな週歌を詠むこともボケ防止


「団塊」と呼ばれて昭和は駆け上がり平成は下りこし〈一粒〉我も


離れたる妻を名前で呼びたれば「孫捜しか」と人の問ふなり


常ならず 四月晦日の今日はまた平成晦日と言ふも宜(むべ)なり

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