第4話 融合の儀

「戦は数ではございません‼︎このドラセナには、がございます‼︎」


 マーカム王への直言から数時間後。

 ドラセナの姿は今、ローレンス城近くの放牧地にあった。

 

 彼以外に人はいない。


 見上げた空には満天の星々。

 サロルド軍が、今この瞬間も進軍しているのが嘘のようである。


「ピュー‼︎」


 ドラセナは親指と人指す指を咥え、指笛を鳴らす。


 草を踏み締める音。

 堂々とした足取りで、闇夜の向こうから何かが近づいてくる。


 愛馬・トゥレネである。


 闇と同化した漆黒の馬体からは優駿特有のオーラと風格が滲み出ていた。

 トゥレネはこの放牧地にいる数千頭のリーダーである。


 このウマリティ王国には馬房がない。

 放牧こそが馬本来の能力を最大限に引き出すと考えているからだ。


「ヒヒーン」


 トゥレネはその威厳を誇示するかの如くいななく。


「ヒヒーヒン」


 それにこの放牧地の数千頭余りが呼応する。


「よしよし」


 ドラセナは傍まで来たトゥレネの鼻筋を優しく撫でて、空を見上げる。


 ドラセナは武勇だけではなく、占星術にも長けていた。

 だから分かる。

 今日がディファロスの言及していた星降る夜であると。


「そろそろだな」


 おもむろに腰の剣を抜いて、垂直に地面に突き刺す。

 それから鞘を使って、突き刺した剣を中心に、魔法陣を描いていく。


 数分で魔法陣は完成した。

 魔法陣の中心にトゥレネを誘導する。

 自らも片膝をつく。

 目をそっと閉じて、夜空に向かって祈り始めた。


 瞑想。


 静かな時が流れていた。


 どのくらいそうしていただろう?


 その時だった。


 閉じた目の奥で、眩い光がほとばしった。


 来た。


 ドラセナは、カッと目を見開く。


 見上げる。


 遥か空の彼方。

 蒼き光がドラセナに向かって落ちてきていた。


 瞬く間に放牧地一面を光が照らし、轟音が鼓膜と体を震わせる。


「ヒヒーン」


 馬たちの悲鳴に似たいななきがこだまする。


「来た‼︎」


 ドラセナは叫ぶ。


「ヒーン‼︎」


 トゥレネも応じる。


 蒼き光の球体は魔法陣に向かって一直線。

 ドラセナは目を瞑り、グッと奥歯を噛む。


「ドラセナよ、流星と我に向かって願え‼︎」


 その瞬間、神・ディファロスがドラセナの脳に直接話しかけてきた。


 それを合図に、ドラセナは天に向かって力一杯叫ぶ。


「融合‼︎我をケンタウロスに‼︎」


 その瞬間、凄まじい閃光と轟音がドラセナを包んだ。

 押し潰さんばかりの衝撃。

 

 ドラセナはその場で意識を失った。

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