第18話

 正午頃、店を閉めて私達は休憩した。


「……漫画が読みたいんだけど、もう少し居させてくれ! 頼む!」


「閉店です」


 シーナさんの低く静かな声で、客はいなくなった。

 店長はこうでなくてはな。本当に頼もしい。

 アルバイトとシーナさんに賄い料理を出す。

 アルバイトは、賄料理を食べたら帰ってくれた。


 シーナさんは会計を。私は掃除だ。

 疲れるけど慣れて来たかな……。



 ――カランカラン


 もう日暮れだけど、ドアから誰かが入って来た。

 まあ、気軽に喫茶店シーナに入って来れる人なんて、一人しかいないんだけどね。

 でも、今日はパーティーなんだな。4人で入って来た。


「おかえりなさい。ジャンヌさん」「おう! ジャンヌ。どうだった?」


 ジャンヌさんは、満面の笑みだ。

 そして、それをテーブルに置いた。

 私は、人数分の飲み物を用意してから、テーブルに近づく。


「……肉? 漫画肉?」


 骨付き肉だ。そして、関節部分が露出している。


「ドラゴンの肉だよ?」


 お? ということは?


「おめでとー! ジャンヌ! ドラゴンスレイヤーじゃん!!」


 シーナさんが、ジャンヌさんに抱き着いた。


「あはは! ありがとう!」


 まじか~。ドラゴンを倒したんだ。


「お祝いしたいけど、材料がないや……」


「その肉を焼いてくれないかな? 御馳走は、それだけでいいよ。というか、そのためだけにシーナの店に来たんだ。ユージ、調理してくれるかい?」


「もちろんです!」


 ささやかでもいいから、私の調理した料理を食べに来てくれたんだな。

 塩胡椒だけの味付けしかできないけど、薄切りにして、手早く調理して行く。

 賄いで作っていた、サラダを添えて完成だ。


 ドラゴンステーキのサラダだ。アクセントとして、レモンを絞る。

 簡素だけど、材料がなかったので、今の精一杯を出す。


「「「乾杯~!」」」「「「美味し~い!」」」


 私も食べてみる。


「……凄いですね、この肉。活力が湧いてくるようだ」


 そして、食べたことのない味……。牛でも豚でも、鶏肉でもない。

 異世界転移者の私でも、食べたことのない味だった。体温が上がったのを自覚する。


「うふふ。ユージに調理して貰って正解だったね」


 全員が頷いた。

 私は、調理師免許も持ってない、普通の社会人だったんだけどな。

 でも、喜んで貰えている。

 それが嬉しかった。

 そして思ってしまった。


『調理師免許を取って、食品会社に就職する道もあったのかもしれない……』


 それと、もう一つ欲しい物ができた。


「シーナさん。タオルを一枚貰いますね」


「うん? いいけど……」


 魔法を発動させる。

 布に線状の模様が描かれて行く……。



「ドラゴン討伐祝勝会 by 喫茶店シーナ」


 漫画調の風景画だ。

 いままで色々描いて来たけど、これが最高傑作と思えるほど、私の感情を込めた作品が作れた。

 それを、画鋲でボードに張る。

 全員が、いい笑顔で見てくれた。


「「「タイトルは、まんまだね。でも見ていて嬉しくなるよ。それと、ジャンヌが綺麗過ぎないかい?」」」


「そうですか? ジャンヌさんは、元から綺麗な人じゃないですか?」


 皆が笑った。

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