第08話:すこしは好きって気づいてよっ!

 じゃあ、反対側も耳かきを始めますね。

 ……むむむっ、こちら側にも獲物がいましたよ。カリカリカリ……っと。


 ……え? 「今日、話してくれた私の友達の話を聞きたい」……ですか? 続きが気になるんですか。それは別に良いですけど……。

 えっと、どこまで話したんでしたっけ? たしか……片思いの男性とデートすることが出来たものの、全く振り向いてもらえなくて、もう諦めるしかないんじゃないかって悩んでいるところまででしたっけ?

 そうですね、私は……じゃなくて、私の友達は、デートが終わりにさしかかった時には、もう諦めようと思ったんです。片思いでもこんなに幸せなデートができるなら、今のままでも良いんじゃないかな、って。

 でも、デートが終わってひとりになったら、急にとても寂しくなって……。もっともっと大好きな人と一緒にいたい。できれば、ひとり占めにしてしまいたい。そう思ってしまったんです。

 それで……その、気づいたら大好きな人の家に乗り込んでしまった……みたいですよ。


 ご参考までにお聞きしたいのですが、先輩は……アピールの下手な女の子とか、独占欲の強い女の子とかって、お嫌いですか……? あ、でも、耳かきは上手かったりするかもしれませんよ?

 ……そうですか! 嫌いではないんですね! ホッとしました……。

 え、なんで私がそんなにホッとしているのか、って? そ、それは、ほら、大切な友達にもまだチャンスがあるかもしれないって分かったからですよ! アハハハハ……。


 もうひとつ、ご参考までにお伺いしたいのですが、もしも先輩が私の友達の立場だったら、どうやって片思いの相手に好きって気持ちを伝えますか?

 持てる限りの勇気を振り絞って、すごくアピールしているつもりなんですけど、気持ちには全く気づいてもらえなくて……。ホント、すこしは好きって気づいてよっ、って言いたくなるくらいに気持ちに気づいてくれないんですよ?

 ……え? 「その男性ってひどいね。そんなに鈍感だなんてちょっと許せないよ!」……って、ほ……本当にそうですよね……。アハハハハ……。

 むぅ。「そんなに鈍感な人だと、もう思いのたけを言葉にして告白しちゃうしかないんじゃない?」って簡単に言いますけど、告白するなんてそんな勇気なんて頑張ったってなかなか出ませんよ!

 …………。

 ……まあ、でも先輩の言うとおり、今まで以上に勇気を絞り出さないと前には進めないですよね……。わかりました。頑張ってみます!


 ……っと、お話が一区切りついたところで、耳かきの方もおしまいになりそうです。

 なんだか段々と緊張してきました。し、深呼吸しないと……。

 すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。

 大丈夫……、大丈夫……、頑張れ、私っ!

 ……はい、こちら側の耳も掃除し終わりましたよ。最後の仕上げに息を吹きかけますね。ふぅー。

 これで両耳とも綺麗になりましたね。これで小さな声も聞き逃したりしないはずです。

 ……恥ずかしいから小声で伝えますけど、勇気を振り絞ってもたぶん一度しか言えませんから、絶対にぜーったいに聞き逃さないでくださいね。

 大好きです、先輩。すっと、ずーっと、大好きでした。私とお付き合いしてくれませんか?

 ……チュッ。

 わ、わぁ! い、い、い、今のは想いが先走り過ぎたというかなんというか……。

 で、できれば、今のも告白の返事と一緒に返してもらえると嬉しいです、先輩!

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