悪魔祓い

第15話



「ハリム、ハリーム」

ぼくは、ハリムの家の中にむかって叫んだ。 ハリムはちょうど学校から帰ったばかりか、白いシャツと半ズボンで家から出てきた。

「ちょっと、こっちに来て」

ぼくはハリムのうでをひっぱた。

ハリムをひっぱって、ぼくは歩いた。ハリムの家の次の角を曲がるとテニスコートがあり、その横は草深い空き地になっていた。ここならだれにもじゃなされない。

「何だ、どうした?」

 ハリムがまゆをひそめて、ぼくの手をふりほどいた。

「お願いがある」

「何?」

「おじいさんを呼び出してほしい」

「え、どういうこと?」

冷静なハリムに、ぼくはちょっと、頭をひやされた。そうだ。始めからちゃんと説明しなきゃいけない。

「この前、文化交流でさ、いっしょにきもだめしをしたやつ覚えている?」

「ああ、感じの悪いやつだ」

「そう、あいつに悪魔がついたんだ」

「なんだって、悪魔? どうして?」

「日食を見てしまった」

ハリムは、あきれたようにぼくを見つめて、やれやれというように頭をふった。

「だから、気をつけろって言っただろう」

「うん」

言い返す言葉もない。ぼくは、うなだれてしまった。

「それで、どんなようす?」

「笑い声が聞こえて、ねむれない……」

ハリムがフーッと息をはいた。

「真一郎の悪魔払いをやってほしいんだ」

「ぼくが?」

ハリムが親指で自分の胸をさした。

ぼくはゆっくりうなずいた。

「できるわけがない」

「ハリムが直接できないのなら、おじいさんの霊にたのんでほしいんだ」

「おじいちゃんの霊?」

ハリムの目がまんまるに見開かれた。

「あの日、おじいさんを呼び出すことができるって言ったじゃないか。おじいさんは祈祷師だったんだろう? おじいさんを呼び出してたのんでほしい。ぼくは、友だちを助けたいんだ。ハリムにしか頼めないんだ」

ハリムのまゆがぴくぴくと動いた。

だまったままハリムは考えこんでいる。

ああ、ハリムができないって言ったらどうしよう。

 ぼくは、すがりつくような目でハリムをみつめた。

「わかったよ。できるかどうかわからないけど、おじいちゃんを呼び出してみる」

「ほんと、よかった」

ぼくはほっとした。これで、真一郎を助けることができる。

「いつ、やる?」

ハリムが聞いた。

 ぼくは、ざっと頭のなかで考えた。

 早ければ早いほうがいい。それも、大人にじゃまされない日をさがさなきゃいけない。実行するのは、やっぱり次の日曜日しかないと、ぼくは思った。

次の日曜日、お父さんやお母さんはPTAのゴルフコンペのパーティで夜おそくにしか帰ってこない。ぼくらが、勉強会でぼくの家に集まる日だ。

「次の日曜日の夜。いい?」

「次の日曜日? 早すぎるよ」

「もう、その日しかないんだ。真一郎がたえられなくなってる。こわれてしまうかもしれない」

「こわれる……」

 ハリムは何かを考えているようだった。

「場所は?」

「ぼくらの学校の運動場でどう?」

「ああ、あそこか……、あそこなら……」

 ハリムがしばらくして決心したように、「了解」と言って、こぶしを上げた。

 ぼくも、同じようにこぶしをにぎりしめた。


その日、 ぼくは真一郎に悪魔祓いができることをを伝えた。そして、次の日曜日、両親がゴルフコンペに参加できるよう、今から普通にふるまうことを真一郎に約束させた。

 そして、家に帰り卓也に電話をかけた。だって、悪魔払いなんだもん、人数が多いほうが、恐くなくていいだろう。

「話があるんだ」

「何だよ」

卓也の声がスマホから流れてきた。

「真一郎を助けたいんだ」

「何、それ?」

「真一郎が学校にこられないのは、真一郎に悪魔がついたからなんだ」

「何、言ってるの」

「真一郎から聞き出したんだ」

ぼくは、今までのことを卓也に話した。そして、悪魔祓いができそうなことも。

「へえー、ちょっとおもしろいかもな」

はじめ、疑い深そうにぼくの話を聞いていた卓也も、しまいには、いっしょにやると言ってくれた。

卓也との話し合いで、ぼくはまゆみと香織に電話をかけることになった。卓也は浩司と友里に電話をかけてくれるという。

まゆみたちも、はじめは乗り気じゃないみたいだったが、ぼくが「お願い、お願い」とたのみこむと、やってみると言ってくれた。

「日はもう決まってるんだ。次の日曜日の夜、勉強会でみんな集まるだろう。その時にやる。場所は学校の運動場」

 ことは、とんとんと進んでいった。

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