第4話 夜
「ほんとうはこういうことしちゃダメだからな」
「わかってるよ」
「ほんとか?」
「うん」
僕らが今何をしているのか――李希が学校に明日締切の課題を忘れたからって、学校の完全下校がもおとっくに過ぎた8時過ぎに学校に侵入(?)しているのだ。でも運がよく担当の人が締め忘れたのか、それとも元々この時間には閉めていないのかは分からないけど、昇降口の鍵が空いていた。
明日までの課題とはいえ、李希のせいで呼び出された僕と海也はひどい迷惑だ(3人とも家から学校は比較的近いのだけど)。まだ8時過ぎだから学校には先生もいるだろうし、バレないかとお化け屋敷にいるかのような鳥肌がさっきから立ちっぱなしで落ち着かない。それに夜の学校っていいイメージがない。大体お話に出てくる夜の学校って何かしらの事件が起こるんじゃないか。
でも、そんなことを考えている暇はない。まあ、そんな暗いほどではないからそこまで怖くはないんだけど、早く出たい。
「なんで、付きあわされなきゃいけないのか」
「ほんとだよな」
先頭に入る李希に聞こえないような声で海也がそう僕に不満をぶつけるように言ってきたので僕も不満を言った。だけど一応友達だし、しょうがないかと心を改める。
自分のクラスに着いた。いつもよりも狭く感じる(多分それは周りが暗いからだろう)。
「あ、待てよ」
明かりをつけようとしていた李希を海也が慌てて静止する。
「明かりつくと、バレるぞ」
「あ、そうだ」
僕もそれは考えなかったけど、海也は僕らよりもいくらか冷静みたいだ。李希が自分の机から課題を取ると教室の入り口にいる僕らの元へ駆け寄ってきた。ほんの数秒の出来事だった。
「ほんとありがとな」
「ほんとだよ」
海也はもうどうでもいいって言うふうにそう吐き出した。
「なんか、教室、少し汚いよなー」
海也が周りを少し見渡したあと、そう呟く。確かに暗いのでよくは分からないけど、そんな感じがする。それは同時に昼に皆がこの教室で活動していたことも意味する。
「掃除していかない?」
「いやー、早く帰ろうよー。バレるよ」
海也がなぜだかそんなことをいい出した。僕はこの闇に支配されている夜の学校から抜け出したいのに……。
「だって、いま出てバレたら怒られるだけだぞ。でも、掃除すれば少しはいいんじゃない」
たしかにそうかもとは思うけど……、やっぱり脳が拒否の命令を出している。だけど、李希も「そうだね」と納得してしまったため2対1は流石にかなわないと思い、掃除することにした。
掃除、それも夜に。何をやってるのかよくわからない。だから自動に動いてくれる体に掃除はもう任せている。多分脳は掃除しろという命令を出していないんじゃないだろうか。
「あ……」
僕のほうきが誰かの机に当たったせいで、折りたたまれた小鳥とかが運んできそうな小さな紙らしきものが落ちてきた。ここはたしか桜菜さんの席だと思いながらその紙を拾う。なんだろう?
「どうしたの?」
僕が面白いものを見つけたかと思ったのか、2人が掃除なんて忘れてしまったかのように駆け出してきた。
「いや、何か桜菜さんの机から……」
「誰かへのラブレターじゃね」
李希が自然な感じでそう言う。自然にそう言われると頭が急に何かにぶつかったかのような錯覚がする。
いや、でもこの形、ラブレターとかではない気がする。もう少し、ラブレターだったらちゃんとした紙に書くんじゃないだろうか。でも、絶対違うとは否定できない。だけど、これを開くのは流石に僕にはできない。ラブレターではないんだろうけど、開けたらなんか体が吹き飛ばされそうな……。
「閉まっておこう」
僕は元の位置にその紙を戻した。もし、ラブレターだとしたら誰なんだろう。桜菜さんが好きな人って……。
「まさか、大希、桜菜こと好き?」
「いや、そんなことは……。いい人だとは思うけど……」
「そうか……」
いや、好きだよ! でも、ここで2人にその事実を言ったらどうなるんだろうか?知らないけど、言わないほうがいい気がする。後で後悔しても遅い。
「じゃあ、片付けるか……」
「うん」
2人は気が済むまで掃除できたのか、ほうきを閉まって塵取りにゴミを入れ始めた。僕は少しその桜菜さんの席の近くに何も考えることなく立っていた。
家に帰り、10時を過ぎたころまた、昨日のように桜菜さんからLINEで質問が来た。
『昨日よりあれな質問だけど、ごめん。お願い。
今日の質問は、君がもし好きな人がいたら何してあげる?』
やはり、桜菜さんには好きな人がいるんだろうか。だってこういうのって誰か好きな人がいるからやるんだろうし……。でも、その誰かは僕ではないんだろう 。だって、普通こういうの好きな人には直接聞かないから。だけど、桜菜さんの力に少しでもなれるんだとしたら、僕もそれは嬉しんじゃないだろうか。
『そうだな、その人の好きなものたくさん聞いて、それを食べさせてあげたり、やってあげるかな』
少し返信するのが怖かった。でも、僕の指が何とか押してくれた。
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