第2話 放課後
幸い僕らの怪我は入院するほどとか、骨折してたとかではなかったので、痛みとかは少しの間続いたけれど、いつの間にか魔法がかかったかのように治っていた。
あの日からもう2ヶ月ほどが経ったのか。なにか感じるんだよな。僕の耳にピアノの音色がゆっくり流れてくるような。
「はい。じゃあ今日はこれで終わります。ではさよなら」
「さよなら」
さっきまで1時間目のはずだったのに、いつの間にか学校の終わりを告げるチャイムが鳴っていた。毎日砂時計の落ちるスピードは変わらない、でもその感じ方はその日によって変わるんだろう。そういう日もあるんだな。
「あ、大希、新しく出来たゲーセンいかね?」
「どうせ暇でしょ」
「あ、まあいいけど」
2人の友達――
この地域に新しくゲームセンターが出来たのは知っていたけど、いざそこに行ってみると思っていたより大きかった。ゲームセンターの入り口って東京に行ったとき見たのって遊園地みたいな華やかでカラフルだったような気がするけど、このゲームセンターは白い背景で統一されていて普通の人が考えるゲームセンターとは少し違い少しレトロな感じもした。
中に入ると普通だったら大音量で流れているはずのBGMが抑えめだった。それでその音楽は昔ながらの喫茶店で流れているような、クラシックみたいな……。たしかにこういうゲームセンターがあってもいいのかもしれない。
「なんか昔を感じられてこれはこれでいいな」
「うん、たしかに」
「だな」
ユーフォーキャッチャーの景品は昔らしい物もあったけど、他のゲームセンターにあるフィギュアとかもたくさんあった。李希がユーフォーキャッチャーはクレーンが空飛ぶ円盤イコールユーフォーみたいってことでそうなったみたいだよと、少し偉くなったかのように自慢げに言っていた。
「あ、これとかいいんじゃない?」
海也があるユーフォーキャッチャーを指した。可愛いけど大きなくまのぬいぐるみだ。それも(なぜだか)クロワッサンをもっている。
「じゃあ、俺、取っちゃお」
海也がそのユーフォーキャッチャーの前に立ち100円玉を2枚投入した。流石に運がよくないと取れないとは思うけど、海也は自信に満ち溢れ少し光を放つような顔をしていた。クレーンを動かし始める。そこだ! と思ったのか海也がクレーンを止めた。クレーンが下がっていく。そしてその人形を持ち上げる。ここまではよく見るパターンだ。
「頑張れー」
李希がそう応援してたので、僕も小さな声で、
「いけー」
と応援した。そのせいもあるのか(いや、関係ないと思うけど)クレーンはその景品を落とすことなく、運び込んだ。あれ、一瞬の出来事でよく分からなかったがとれてしまったみたいだ。
「あ、なんかやったー」
海也は嬉しそうというより、なぜだ? という顔をしていた。これは見ていた僕らも同じだ。まじか!
「まあ、いっか、抱きまくらにしよ」
いつの間にかチーターとかがあっという間に自分の前を通り過ぎた、そんなような気持ちになる。
「あれ、桜菜と音海じゃね?」
「ほんとだ」
数メートル先に同じクラスの桜菜さんと音海さんがいた。桜菜さん!? 何か心が熱くなる。
「おーい」
李希が僕の心の様子なんか気にする様子もなく2人に手を振った。そうすると2人も「あっ!」という感じで気づいたようで僕らのもとに来た。
「2人もこういうとこ来るんだー」
「少し気になって、ね……」
李希が聞くと、桜菜さんがそう言い、音海さんをそうだよねという感じで見て、音海さんもうんとうなずいた。少し失礼だけど、2人がこういうところに来るのは少し意外だった。
「あ、そうだ! この中でくじ運いい人いない?」
「えっ?」
音海さんがなにかを思い出したかのように手を叩いたあと、くじ運がいい人がいないか僕らに聞いてきた。
「なんか、開店記念で5人以上くじ引けるんだってー」
「それなら、大希が」
海也が音海さんの言ったあと、ほとんど間を作らずに即答した。えっ、僕? 僕ですか?
「なんで?」
僕はなぜ指名されたのか全く分からず海也に聞く。
「いや、だって去年福引大会でレンシレンジ当ててたじゃん」
たしかにそうだった。ただ僕の家はその時レンシレンジ買い替えたばかりだったので、海也にあげたんだった(僕は優しいのでタダであげたけど)。でも、あれはたまたまだからな……。
「1等は1万円の商品券らしいよー」
「ほんと!?」
桜菜さんの言ったことに急に旅行前日のようなワクワクしたような気分になる。それは、興味深い。
「じゃあ……」
ということで、僕が一回抽選機を回すことになった。2人に福引大会の会場に案内され、少し並んだあと、僕の番がきて、抽選機の回す部分を握った。さっきまで人が触っていたはずなのに冷たい。でも、体からは水分――汗が出ている。よし――。
さっきの李希みたいに自然といい方向にいってしまった――なんてことはなかったけど、3等の金平糖の乗っかった、かき氷人数分があたった。責められるのかなと思ってたけど、そんな不安もする必要はなかったようで、逆に3等でも当たったことを皆、驚いていた(なんだ、皆、期待してなかったのかよ)。
「珍しいよなー」
「うん」
僕らはそのかき氷を2階の自動販売機やテーブルとかが置いてある、休憩スペースらしき場所で食べた。
「美味しいよ、大希くん」
1口食べた桜菜さんにそう言われて少し恥ずかしいような嬉しいような不思議な気持ちに自然となる。これがあの時のお礼――とまでは言えないけど、少しは桜菜さんに恩を返せたんじゃないだろうかと思ってしまう。
「ほんとうだ」
僕も1口食べたが、金平糖の食感が楽しい。口の中でリオのカーニバルが開催されている、そんな感じだった。
僕は一瞬だけ桜菜さんと目があって、感じてしまう。
あの日が蘇る。僕は桜菜さんに告白すべきなんだろうか?
この感情。今あるこの感情。
草原にいるような、どこにでも駆けていけるようなその気持ちを、どうすればいいんだろう。どこに走って行けばいいんだろう。
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