第17話 怪我の具合はいかがかしら? 【一花】

 テストが終わって、一樹が直塚を殴って、そして数日が流れていた。


 私は、進学組(1組)の教室にいて、2時間目と3時間目の短い休み時間に、次の授業の簡単な予習のための復習をしていた。


 そんな私に不意に声がかかった。


 ほんとうに不意に、だってこのクラスって、あんまり生徒同士が仲良くしているって感じではないから、いい意味でみんなマイペースで、他と混じり合わないっていうのが当たり前だと思っていたからだ。


 「ごめんなさい、いいかしら?」


 そう声をかけてくるのは、一人の女子、ちなみにこのクラスの男女比は概ね3対1の割合で、女子は少ない。


 その女子生徒の一人、綾小路あやこうじ瑞穂みずほさん。


 なんでも、由緒但しお家の方らしい。お父さんは官僚なのだとか。


 名家のお嬢様って感じで、この学校、そういう人は割と多いみたいだけど、その中でも際立っている存在。

 背も私くらいで、黒く艶のある髪を腰のあたりまで伸ばして、多分、街をあるけば10人中、10人は振り向くであろう、艶あかって言葉の似合うお嬢様。でも全然嫌味なところもないから、割と学校内では有名な人。


 で、そんな綾小路さんが声をかけてくる。


 「なにかしら綾小路さん?」


 私、この人と、直接話したことないんじゃないかしら? というかこうして、私の席まで来て、なんの用なのかしら?


 ちょっと驚いてる私がいる。


 だって、接点ないもの。


 すると綾小路さんは、私の机の横に、立って、スッと髪をかき分け、


 「どうなのかしら?」


 と言われる。


 ?????


 「どう? って、なんの話?」


 いや、なんか言ってる自分が感じ悪……、ってなるけど、他に言いようがない。そして顔はかなり怪訝な顔してるんだと思う。


 すると、綾小路さん。


 「どうって、この前の事件のことよ」


 って言った。


 ああ、そうか、ちょっとした騒ぎだったものね。


 「主人なら停学処分をいただきましたが」


 そう言うと、


 「それは知ってるわ」


 って言われる。


 じゃあなに? 何を知りたいのか見当がつかない。特に私もこの綾小路さんと接点があるわけじゃないし、一体何を、なんで知りたいのか、今ひとつ要領を得ない。


 すると、ちょっとイラッとしているみたいな、眉を寄せる表情で、綾小路さんは、


 「そうじゃないでしょ? 怪我よ、一樹さんの怪我は具合はよろしいのかしら?」


 って聞いてくるから、ああ、なんだ、最初からそういえばいいのに、って思って答えようとする前に、どうしてか私は先にこんな言葉を出してしまう。


 「え? 綾小路さん、うちの主人、一樹と面識ありましたっけ?」


 そうなのよね。私と綾小路さん以上に綾小路さんと一樹の接点が、あるとか無いとかとかじゃなくて見当がつかない。


 すると、綾小路さんは、


 「ええ、あります、ですから心配していました」


 本当に心配そうに言うから驚いている私がいる。


 え? 真面目に? 接点あるの?


 そんな疑問が渦巻く私の心なんてまったく意に返さないみたいに綾小路さんは、


 「なんでも、骨を折っていらっしゃると聞きましたので、お見舞い申し上げますわ」


 と言うから、


 「はい、ありがとうございます」


 と、ほぼ反射で返事を返すと、


 「お見舞いは、どこの病院へ送ればよいのでしょう?」


 「いえ、入院はしていないので」


 「では、自宅療養ですか? お家に送って構いませんか?」


 っていうから、


 「いえ、もう普通に学校に通っていますので、お見舞いは遠慮させてください」


 ほんとうに、つらっと、そんな言葉が出る。


 すると、綾小路さんは、


 「まあ、平気なんですか?」


 「ええ、手の薬指の骨折なので、生活には支障がでていませんので、週一の通院ですんでます」


 って言うと、


 「そうですか……」


 そう言ってから、ちょっと空を仰いであれこれ考えているような綾小路さんは、


 「わかりました、また改めてご挨拶させてください、一樹さんにはお大事にとお伝えください」


 と品の良い笑顔を向けられて、一礼すると、自分の席に戻って行った。


 普通にね、彼女の存在って、同じクラスではあるけど、どこか別世界の人って印象があるから、いい意味でも悪い意味でも、この個人主義の集いみたいな、このクラスにあって異彩を放ってるって、つまりは孤立、いえ、孤高な人なのよね。


 私にとって、この学校内で孤高っていうことは、つまりは浮いちゃってるってことなの。


 そんな彼女と私の旦那である一樹が接点を持っていたってことが驚きで、さらに最近なら優のこともあるつから、一気に不安になってきた。


 いや、旦那がさ、モテるっていうのはさ、なんか妻としては鼻高々なんだけどさ、私の知らないところで、いつの間にか孤高な女子と仲良くなってるっていう、今のいままで全く知らなかった事実を知ってしまうと、なんか、もう、不安でしか無い。


 だめだ、今日は帰って一樹に聞こう。


 吐くまで寝かさない様にしよう。


 ほんとうに、優の事といい、私の知らないところで一体何をやっているの一樹?


 未だ、学校では3時間目が開始される、今の時間が恨めしい。


 早く放課後にならないかなあ…………

 

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