第16話 席替えと許可

 3日ぶりに学校に来た。


 ひさしぶりの校門、久しぶりの校舎、直塚を殴った玄関に、久しぶりの1年3組。


 例の事件、僕が起こしてしまった事件があったからさ、あの体育教師、別名『人の嫁にちょっかいだそうとする筋肉ダルマ』一部では直塚先生と呼ばれている生き物をさ、こっちが怪我したとはいえ、殴ってしまっているわけだから、教師を殴るなんてあってはならないことだから、きっとクラスのみんなもドン引きしているだろうなんて思っていたんだけど、その実、そうでもなかった。


 みんないたって普通だった。



 特にその話題に触れることもなくて、まるで何事もなかったかの様だ。


 少なくとも、同じクラスの翔には揶揄われるかな、くらいにはおもってたんだけど、今日は学校に来てなかった。


 なんでも、国だかオリンピックの強化選手として、中央に呼ばれてるらしい。


 中央っていうくらいだから東京たっておもうけど、ともかく今この教室にはいない。


 この情報は、昨日、翔本人から聞いてた。この前、心配してきてくれた時に言ってた。


 で、席につこうとする僕なんだけど、あれ? なんか僕の席が無いなあ、って、入り口の付近でまごまごしてると、


 「おい!一樹、こっちだ」


 って優が手を振る。


 後ろの方。


 なんだろ?


 って行ってみると、


 「お前のいない間に、席替えがあったんだよ」


 ああ、そういうこと……。


 机と隠くすような不憫な奴はこのクラスにはいないって思ってるけど、万が一、そんな事されたら、心の弱い僕は、このまま帰ってしまえる自信があるよ。


 で、席に着く。


 一番窓側の後ろの席だ。いい席だね。


 で、隣には優が座ってる。


 そいや、昨日、ずいぶん遅くまで一花と話していたみたいだなあ。僕は10時には寝てしまったけど。なんの話をしていたかわからないけど、あんまし遅かったら僕も送って行こうとは思っていたんだよ、10時には寝てしまったけどね。


 「おはよう、一樹、昨日はありがとな、ご飯までごちそうになって」


 「いいよ、前もって一花が言ってたから、ちゃんと準備できてよかったよ」


 なんて普通の会話。


 あれ? ちょっと優の顔が紅いなぁ……、僕は思わず、優のおでこにい触れながら、風邪でも引いた? なんて聞こうとしたら、びっくりするくらいの速度でスゥェーって言うの? ボクシングのテクニックってしらないけど、そんな身の引き方して、僕の手を頭ごと離れた。


 「え? なんで?」


 って言うと。


 「いや、なんでもない、大丈夫だ、平気だ、心配するな、OKだよ、ほんとほんと」


 って言う優。


 なんかちょっと熱かったような気がしたから、


 「ほんと?」


 って聞くけど、


 「ああ、大丈夫だ」


 っていいながら、やけに僕から視線を逸らすんだよなあ」


 なんか優の態度が変だ。


 ってそのことについて聞こうとするんだけど、ちょうど白川先生が教室に入って来たので、話はそこまでになった。


 まあ、いいや。


 一花にも言われてるけど、ともかく連休明け、じゃなかった停学明けは真摯に反省しているように、そんな態度をとらないと。


 そう思って心を入れ替えるよ。


 白川先生はいつも通り、簡単なHRを行った後に、授業に入る。


 あ、しまった、数学の教科書が無い。


 昨日の課題で使って、きっとそのまんま、自宅の机の上に置きっぱなしだ。


 って事は、他の教科書もだなあ。


 ってオタオタしてると、優がさ、そんな僕をちゃんと見ていて、机をくっつけて、自分の教科書を開いて見せてくれた。


 ホッとする僕だけど、教壇の上から、そんな僕らを見て、白井先生は、


 「なんだ、数藤、浮気か? 奥さんにチクっちゃうぞ」


 なんて言って、教室の中は笑いの渦に巻き込まれた。


 うわ、恥ずかしい。


 すると優は、

 

 「浮気か……」


 って呟いてから、サッと手を上げて、


 「本妻からの許可は出てます」


 とか言うんだよ。


 え? なんの?


 戸惑ってる僕をよそにさらに爆笑に染まって行く教室。


 「それは失礼した」


 って白井先生もノリノリだよ。


 で、優なんだけど、僕の方を向いて、


 「そういう事だ、よろしく頼むよ一樹」


 なんか、この笑顔、久しぶりに見るなあって思った。


 うん、なんか、ふっきれた表情。


 やっぱ優の笑顔はきれいだなあなんて思ったよ。


 

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