第18話 オムライスなのよ 【一花】
結局、落としどころとして、優がちゃんと恋とか? そんな感じに他の男に気持ちが向く様になるまで、一樹の事を『好き』でもいいという、本当にひとまずの、折衷案というか妥協案というか、落としどころをみつけたのね。
仕方ないじゃん。
好きって気持ちは止められないでしょ?
まさか、優に向かって、一樹を好きって想わないで!って禁止にできるわけもないから。
隠れてこそこそ好きされるより、思い切って公開して好きって事にしたの。
『え、いいのかよ?』って優に言われるけど、良いワケないわよ。
あの時、キスを目撃して、私、それって、本当にトラウマになってしまったんだからね。
一樹としては浮気しているつもりはないだろうけど、目の当たりにしてあんなの見せられると、軟なハートにズシンっと踏みつけられて、今のその痛みが、残っている感触なのか、それとも今もなおその重石は私の胸にあるのか、そんな事もわからないくらいに、衝撃は未だ心にあるの。
優の事も、一樹の事も、信じてはいるし、きっと賢い優だから、好きって気持ちをこれ以上の行動で表すことは無いって思ってる。
本妻の余裕?
ないわ、そんなもの。
ないけど、もう心が痛いけど、私、一樹はもちろん、優も好きなんだよ。
優って凄いいい子なの。
私も、あんな風に人に親切にできればなあ、って思ってしまうくらいいい子。
仮に私が男だったら、全力で優を口説いてる。
ああ、そうなると一樹が一番のライバルね。
なんて、思考も思念も想像も、なにかこう、バラバラな感じで、落ち着かないわ。
それに、今日の綾小路さんよ。
本当に私、まったく接点が無いって、一樹、どこで綾小路さんに会っていたの?って思えるくらい綾小路さんは一樹を知ってう感じが凄いの。
きっとこれも浮気じゃないわ。
だって、前も説明したけど、一樹って生物的に浮気ができない生き物だから。
魚に肺呼吸しなさい、って言うくらい、一樹に浮気しなさいっていうのは無茶な話なのよ。
でも、まあ、家に帰ったら、一樹と綾小路さんとの接点を聞き出さないとって、
私は、廊下を急いでいたの。
今日は一樹先に帰ってるの。
私の為に、ご飯をつくって待っている筈。
まだ指も治りかけなのに、健気にフライパンをフルって、今頃チキンライス造ってる。
そして、その後、卵で包むのよ。
ああ、もう愛してる。
エプロン姿で料理してる一樹が、オムライスをデン!って出して来る姿。
いつまでたっても慣れない。当たり前って思えない。通常運行として取り扱えない。
オムライスみて、『キャー!』ってなって、ドやってる一樹見て、『クウゥゥ~』ってなって、総合的に、たまりませんわ。になる。
今、この時、この瞬間、幸せのど真ん中にいるなって自覚できるの。
うちのオムライスって、デミグラスソースなのよ。
私の大好物なの。
一樹も一緒美召し上がりたい気分になるけど、ひとまず食欲を満たしたい私がいるの。
ちなみに食欲中枢と性欲中枢って隣同士にあってね、だからどっちか満たされると、隣も満たされてしまうって勘違いしてしまうそうなの。
もっとも、そんなことくらいで、私が一樹に向ける性欲は治まりはしないけどね。
綾小路さんに、一樹の事を聞かれて、一樹の事で、私の知らないところもあって、なんだか、もう、今は一樹を独占してしまいたい気持ちでいっぱいなのよね。
ああ、だめだ、変態さんになってしまいそう。
ともかく、急ごう。
慌てても一樹は減らないのは知ってるけど、ああ、やっと玄関だ。って、いつも思うけど、うちの学校の下履きって脱ぎにくいのよね、結局手を使わないと綺麗に脱げない。
で、下駄箱のところでもたもたしてると、急に、
「今、帰りかい?」
って声がかかる。
白川先生だ。
一樹の担任。
「あ、先生、その節はお世話になりました」
骨を折った一樹に救急車を呼んでくれたことに対してお礼を言う。
「いいよ、でも、けっこう話が大きくなっちゃったから、こっちもごめんね」
って言われるけど、あの時は、あの直塚と一樹を離してくれたから、停学はもらったけど、精神的にはそっちで良かったって思ってる。
いやいや、停学なんて内申だだ下がりじゃん、って思われるけど、別に私は気にはならない。
進学とか就職とか困るから、って、それは就職やら進学する人に言える事なのよ。
一樹は別に進学も就職もしなくてもいいの。
私がしっかり働けば、二人で生きていけるから。
子供ができても、それは、成人するまでは政府が手厚く保障してくれるしね。
そういう考え方だと、私達は制度に頼って生活しているって思われるけど、その通りだから何も言えない。
こうして、私が、今、一樹と幸せに結婚生活を送れているのも、いうなれば、この『早期未成年婚』のおかげだしね。
もちろん、権利がある、保障してもらえる、には義務もある。
でも、この制度って、義務って言い方をすると、とても重いものに感じるけど実際は、普通に夫婦生活をしていればその義務も簡単に果たせられる。
だって、愛し合っていればいずれ、その結果は結実するでしょ?
私達は、この時代に、この制度が生まれて、そんなタイミングでここに生きてる。
それはとても、幸運で恵まれた事だと思う。
そして、そのことを誰よりも自覚してる。
だから今日もSEXがんばろう、って、公式に思うの。
ああ、早く一樹に遭いたいなあ……
自分の歩く速度が一樹を待たせてる時間。
そう思うと、自然と足早になるの。
そして、校門を出ようとする私に声がかかった。
「数藤、ちょっといいか?」
なんだろう? 下校してる生徒でも見送ってたのかなあ?
私に声をかけてきたのは、あの直塚先生。
私にとって、感心の無い、あの体育教師は、ども私に用事があるようだ。
でも、それが、その用事がなんなのか、私には全く想像できない。
一樹が殴って、停学なって、でもその原因の直塚という教師に対して、なんら思うところは無い。
そのくらい私には、この直塚という男に対して、微塵も興味がないのだ。
だって、羽虫が一匹飛んでるだけで、本気で取り乱し怒り狂う人なんていないと思うから。
直塚って男は私にとって、その程度の人間なのだ。
だから自然に表情も冷たいモノになる。
「そんな邪険にするなよ」
そういって私の肩に手を置こうとする短くて太い腕。
ああ、そういう事か。
私を巻くように捕まえてる直塚の横顔。綻びが止まらないみたい。
そう、私は女性の本能、警戒心として受け止めて、今にも叫びだしそうな気持を我慢していたの。
一樹の事で脅して来たか……。
嫌だけど、一樹の為に、お話くらいは我慢しようって思ったの。
妻だから。
健気ね私。
早く帰って一樹のオムライスたべたいなあ……
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