第29話

 魔王城を出てから、適当な方向に進む。


「魔王を倒さなくて良くなり、また目的を見失ってしまったな……」


 この世界の脅威を排除する……はずが、その脅威が、見当たらなくなって来た。


「ふぅ~。目的が欲しいな。何処かに困った街でもないものか。もしくは、まだ手を付けていない迷宮ダンジョンに篭るか……。いや、戦闘ヘリコプターの開発を目指すか……」


 狩るモノがいない。急に虚無感に襲われる。

 たまに、魔物に襲われるが、食料に変わって貰う。

 虎、熊、ワニ、怪鳥……。武器を手にした私には、雑魚だった。


「たまには血沸き、肉躍る戦いがしたいものだ。……ドラゴンは何処にいるんだろうか」


 私の〈索敵〉に引っかからない。

 そもそも、絶対数が少ないのかもしれないな。

 絶滅されては困る。一年に一匹の楽しみにとっておこう。



 ここで、私の〈索敵〉になにかが引っかかった。


「空を飛んでいる? 人か?」


 そして、私の目の前に着陸した。


「翼を持った……天使か?」


「はい、天使のシルエルと申します。今日は、ヘーキチさんにご相談があり、参上しました」


 なんだろう? 思いつかない。


「大魔王リッカの擁立により、この世界は安定を取り戻しつつあります。この功績により、天界からご褒美のお話が来ております」


 リッカは、私と出会わなくても大魔王になっていたんじゃないのか?

 遅かれ速かれた。それと、聞いておくか。


「勇者は、どうなるのだ?」


「魔王と大魔王がいる限り、勇者も必要ですからね~。また、聖剣を授けて活動して貰いますけど?」


 あの勇者は、心も体も折れていそうなんだけどな。それでも、聖剣を授けるのか……。私としては、凡人と変わりなんだが。

 まあ、彼が元気でこの世界で生きて行くのであれば、良しとしよう。


「それで、ご褒美のお話が来ております」


「まあ、貰える物は、貰っておこう」


「はい、それでは、『より混沌とした世界へ』のご招待となります」


 なに!?


「銃火器あり、魔法あり、戦闘ヘリコプターありの世界になります。その世界の混乱を治めて欲しいのです」


「なんだと~う?」


 次の瞬間に、『次元の扉』が私の前に現れた。


「これは……、なんなのだ?」


「下界で異能と呼べる才能に目覚めた人物の前に現れる、異世界転移装置になります。あ、ヘーキチさんは、トレーニングのし過ぎでしたね」


 トレーニングをすると、異世界転移者となるのか?

 トラック転生は聞いたことがあるが、どんなシステムなんだ?


「ヘーキチさんにとっては、この世界は、難易度の低い異世界転移だったみたいですね。これは天界のミスでした……」


 そうか、ここは、レベルの低い世界だったのだな。


「こんな、Sランクの世界ではなく、次は、最高峰のSSSランクの世界となります。存分にお力を振るってください」


 いや、その言い方では、この世界の位置付けが分からないんだが? ランクは何段階なのだ?


「私の前の世界のランクを教えてくれ」


「え~と、時代にもよりますが、DかEランクですね。Fが最低です」


 核兵器がある世界でも、Dなのか? そして、この世界はSランク? 確かにドラゴンなど、脅威だったが。

 まあ、いい……。


「ふっ……」


 面白い。行ってやろうじゃないか。

 私は、『次元の扉』をくぐった。





「なんだここは、一面の荒野?」


 廃墟が続いていた。しかも、鉄筋コンクリートだ。

 ……戦後か? 北〇の拳や、バイ〇ハザードの世界観そのままだ。食料と水は、どうやって手に入れるのだ? 巨大な金庫に保管されている?

 まあ、私はマジックバッグに数年分の食料と飲料水を蓄えてある。大豆イソフラボンもだ。


「まあいい、とりあえず街へ行こうか」


 私は、じっとなどしていられない。

 歩を進める。


 すると、モヒカンがノーヘルでバイクを駆っていた。


「ほう……、科学技術とガソリンは、ある世界なのだな」


 私は、走って彼を追いかけた。


「すまんが、道を尋ねたい」


「な? 時速100キロメートルだぞ?」


 魔力は使える。それに、前の世界の物資も持ち込めたのだ。そう驚く事でもなだろうに。

 考えていると、モヒカンは銃を向けて来た。

 私は、銃を奪い取る。

 モヒカンは、コケて明後日の方向に飛んで行った。


「時速100キロメートルで、ハンドルから手を離すからそうなる……」


 モヒカンは気絶していたので、応急処置だけしてその場を後にした。


「さて、足が手に入ったな。久々のバイクか」


 ――ブオン


 エンジンを吹かせる。


「大丈夫だ。損傷は軽微。ガソリンもまだある」


「さて、何処に行こうかな……」


 私は、バイクを駆った。

 そして、それが目に入った。


「戦闘ヘリコプターの編隊か……。あれ、欲しいな」


 目的地が決まった。

 私は、戦闘ヘリコプターを追いかけるべく、バイクを駆った。



  ―完―

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前の世界の元猟師は異世界で狩人となる 信仙夜祭 @tomi1070

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