第28話

 これから、魔王城へ向かう事になった。

 魔王城は、山頂に建てられており、水害の被害は受けていないのだそうだ。


 山道を進んで行く。

 本当は、山の稜線に沿って進むのが効率的だが、リッカと私のパーティーなら、山道も苦にならない。

 そういえば、リッカはスタミナが致命的になかったな。

 それが、今や屈強な兵士ソルジャーだ。

 兵士聖女……。色々な仇名が付けられるな。


「何を考えているのですか?」


「いや、リッカの成長が頼もしくてな。昔を思い出していた」


「そうですね。ヘーキチさんに精神を壊される前だったら、可愛い女の子だったのにね」


「精神を壊す? 今だに正常だろうに。それに今は可愛いから綺麗になっているぞ?」


 ――ゴリ


「ぐおぉ……」


 凄い突っ込みが来た。殺意が籠っていないか?

 態度はデレているのだが、人を殺しそうな突っ込みを入れて来るな。


「ついて来たことを後悔しているのか?」


「……少しだけ」


「そこは、『まったく』と言うべきところだろうに。たく……、最近の若い奴は」


 ――ザク


 危ない! かろうじてナイフを躱す。

 それが、地面に刺さった。


「あの~リッカさん? それは、死んでしまいますが?」


「うふふ……。大丈夫ですよ~。私の回復魔法を信じてください」


 異形に改造されてしまいそうだ。あれを治ったとは言わない。まるで、クレイジーダ〇ヤモンドだな。常時キレている〇助じゃぁ~ないか。

 もしくは、センスの悪い錬金術師だ。聖女の錬金術師?

 ふぅ~。危ない仲間を持ったものだぜ。


「そうだ」


 マジックバッグより、折れた聖剣を取り出す。


「リッカさん。これ直せませんかねぇ~」


 リッカが持つと、聖剣が光り出した。聖剣も諦めてリッカを勇者と認めたのか……。ついでに刃先の方も渡す。


「しょうがないわね~」


 ――グニョグニョ……


「直剣が、禍々しい曲剣になっていますが?」


「あれ? なんでだろう?」


 もはや、聖剣じゃないな。魔剣だ。黒い光を放っている。ちなみに私が持っても光らないので、リッカが装備することになった。

 ふぅ~。本当に危ない仲間を持ったものだぜ。





「あれが、魔王城になります」


 歩きで1日ほどで辿り着いた。

 魔族領が狭いのではない。リッカの歩くスピードが速すぎるのだ。


「さて、どうやって攻める? 潜入による奇襲か? 砲撃からと行くか?」


「……いえ。精霊達と話したのですが、少し待ちましょう」


 先制攻撃をとらない?

 防御態勢も見られない。

 そして、魔王軍からの攻撃も見て取れなかった。

 それと精霊達? 元四天王か?

 そう思っていると、魔王城の扉が開かれた。


 軍が出て来る。その数一万匹……。

 まあ、リッカなら一瞬か。多くて3発だな。


 ここで、一人前に出て来た。

 スラッとした、美しい女性だ。


「魔王のソフィアと申します。降伏しに参りました……」


 スカートを少し持ち上げて、挨拶をする。

 うむ、淑女だ。貴族令嬢だな。見惚れるほどの笑顔だ。


「うふふ……。降伏を受理します」


 こっちは、悪魔だ。悪役……、いや極悪令嬢だな。とても、悪どい顔で笑っている。


「大魔王リッカ様に敬礼!」


 魔王がそう言うと、後方の一万の軍勢が、敬礼した?


「何だ? 大魔王って?」





 魔族領は、リッカの手に落ちた。

 魔王が統治して、大魔王は人間が攻めて来たら迎撃を行うのだとか。

 そもそも、戦力が乏しかったところを、リッカがさらに減らしたので、何処の砦も人手不足なのだとか。


 あの勇者は、そんな魔族領にも攻め込めていなかったのか。レベルが知れる。


 魔王と大魔王が、お茶会をしている。

 そんな、キャキャウフフな会話をしないで欲しい。周囲は、その禍々しいオーラでドン引きしているぞ?

 それと、元四天王が敬礼しているが、震えている。精霊界に帰してやれよ。


「討伐しないのであれば、私は不要だな。リッカとはここまでとさせて貰う」


「そうね~。それがいいかもしれないわね~。いままで、ありがとう~」


 こうして、別れの挨拶を済ませた。

 私は、一人寂しく、魔王城を後にすることになった……。

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