第5話

「金貨三十枚のマジックバッグを入手完了……。もう少し値切れたかもしれないが、資金は十分にある。ギルドで換金していると思えば、まあいいだろう……」


「あニョ~」


 隣のミルキーを見る。なにか言いたそうだな。


「性能を試したいのか?」


「そうじゃニャくて……、金貨三十枚なんて返せません二ャ」


 別な心配事なんだな。驕る金額ではないということか?

 後から返して貰えれば、私としては文句もないんだが。


 私は、手入れされていない庭の朽ちた立木を鷲掴みにして、一本引っこ抜いた。

 長さは、5メートルくらいだろう。


 ミルキーに渡す。


「マジックバッグに入れてみろ」


「は、はいニャ!?」


 ミルキーは、バタバタしたけど立木を全てマジックバッグに入れた。


「凄いのニャ。本物なのニャ……」


 問題なさそうだ。

 事前検証も済んだので、ミルキーの表情も和らいだようだ。


「次に行くぞ。時間は有限だ」


「は、はいニャ!?」


 これから買う物が、たくさんある。私達は、店を回った。





 順番に買い物ができた。

 まず、街中で売っている、水筒を全て買い取った。一般庶民が使う竹を素材とした物から、百リットルくらい入りそうな樽まで。ここで気が付いた。店の主人は在庫を売る気はないんだな……。店の裏に、在庫が見えたのだ。


『買占めは良くないかもしれない。必要だとはいえ、買占めない程度に留めて置くか』


「準備できたのニャ」


 ミルキーは、全てをマジックバッグに入れたみたいだ。


「……これだけあれば、二人で一ヵ月は生きて行けるか……。今は秋で、森に実りも多い。時期的にベストと言えるな」


 ミルキーは、顔が真っ青だな。これから過酷なキャンプを想像したのかもしれない。

 まあ、一ヵ月後には、この街でも五指に入る冒険者になっているだろう。

 人は命の危機に瀕すれば、才能を開花する。私はそれを知っている。教えも受けて、そうやって育って来た。そして……、人も育てた。


 鍛えがいがあるな。

 ミルキーが、この街で勇名を馳せる……。

 そんな楽しい未来を想像しながら、私は次の雑貨店に向かった。





「一通り揃ったな」


「……家一軒分の物資を、『一通り』とは言わないのニャ」


 緊張も解れて来たらしい。いい突っ込みだ。

 今は、川で水汲みをしている。


「いくらマジックバッグに時間停止機能があるからって、こんなに水筒を買って使い切れるのかニャ~?」


 ミルキー……、気を抜くのはいいが、心の声が駄々洩れだぞ?


「次の目的地は、火山帯だ。まあ、多過ぎて困ることはない」


 ミルキーが、驚愕の表情で私を見る。


「……はっ? 何しに行くんですかニャ?」


「熊退治と思ったが、予定変更だ。サラマンダーの群れが住み着いて、活性化している火山は見えるか? あの火山だ」


 私は、東を向いた。今は夜中だけど、噴煙が輝いて見えるほどの噴火が起きている。


「え~と。あの火山に向かうのですかニャ……。サラマンダーが群れで住み着いているのニャ」


「だからだ。誰も行こうとしない。このまま行くと、サラマンダーのボスが『異次元の扉』を作り出すんだそうだ。破壊しに行こうと思う」


 ギルドからの情報だった。この一ヵ月間、火山に魔力反応があったそうだが、誰も確認しに行かなかった。そこで今回は、私とミルキーでの調査だ。


「……何人ですかニャ?」


「ん? 二人だが?」


 ミルキーが倒れてしまった。

 おいおい、ここは川だぞ?

 流されるなよ。


 私は、ため息を吐いて、流されているミルキーを追いかけた。

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