第14話 ヴァンパイア族 ルイーゼロッテ・ガルトナーと導きの月光

キャラ設定考えてたら髪が白いだけの刑部姫になっちまったぜ

イチから考えてたはずなのに…どうして…。

名称:ルイーゼロッテ・ガルトナー

体格:166cm、わがままおっぱい、眼鏡、紅色のたれ目、ぼさぼさ白髪

種族:ヴァンパイア族

年齢:420歳(普人族換算で21歳)

備考:漫画家

――――――――――――――――――――――――――――――――

この国においてヴァンパイア族は竜人族に次いで数の少ない種族だ。

理由は大きく分けて2つ。

1つ目の理由は竜人族と同じく出生率が低いこと。

これは長命種族における共通の特徴であり、取り立てて珍しいことでもない。

いくらヴァンパイア族が血を分けることで眷属を増やすことができるとはいえ、伴侶でもない相手と血を混ぜ合わせるなんて、股の緩い阿婆擦れのような真似が出来るわけがない。

残った2つ目の理由は、正直に言えば少し情けない話だ。

まず、主な活動時間が夜間であるため、他種族の多くの者たちと生活がかみ合わないこと。

そして身内以外への警戒心が強いせいで他人と友好関係を築くことを苦手としていること。

簡単に言ってしまえば、昼夜が逆転した引きこもり気質で人見知りが激しいのが我々ヴァンパイア族というものだった。

無駄に頑丈かつ再生能力のある肉体があろうとも、性根が陰キャでは対人関係で無力でしかないのだ。


そんな恋愛雑魚種族のヴァンパイアである私にも、理解のある彼君はいるんですけどね?

まだ正式に付き合ってるわけでもないし、告白はまだだけども、実質的にはもう彼氏彼女みたいなものよ。

だってこの間、こっそり血を吸わせてくれたからね。

首筋からなんてはしたない真似は勿論してないよ。吸ったのは手首からだよ。

でも手首から一舐め程度でも吸血を許すってことはそう言うことだよね。

まさに天国に上るような味だったよ。

普人族の血液があんなに高価で、それ以外が格安だった理由が改めて理解できたね。

あれを知らないなんて人生の半分くらいは損してるよ。

彼らの血のためなら何度となく肉体が血煙になってもお釣りがくるよ。

ご先祖様はさぞかし頑張ったことだろうね。


「君もそう思うだろ?」

「手が止まってますよ先生。

 締め切りまでもう2日しかないんですよ。

 そんな暇があると思ってんですかこのボケナスがよ」

「ぴえん」

「ぴえんじゃねーよ殺すぞ」


はい、ごめんなさい。

黙って作画続けます。

漫画の人気が出始めたのは良いことなんだけど、この作業量を私とアシちゃん2人で回すのは限界が近いね。

碌に家に帰れてないからかアシちゃんのご機嫌も斜め状態がデフォルトになりつつある。

でも人は増やしたくないんだ。

最近になってようやくアシちゃんと仲良く会話できるようになってきたのに、ここで新しいアシちゃん2号を増やしたら私が会話からハブられてしまう。

そんなことされたら寂しくて死んでしまうよ。

どうしたらいいんだろうね、アシちゃんはどう思う?


「あ?」


はい、ごめんなさい。

アシスタント増やします。

アシちゃんの睡眠不足からくる眼光と恫喝に屈した私は口をチャックして机に向かい直すのだった。



◆―〇―◆



「終わったー!」

「はいお疲れさまでした。

 私はこのまま帰って寝ますけど、私が次に出勤するまでに追加のアシスタント補充しといてくださいね」

「アシちゃんも一緒に面談しようよー。

 ご飯奢るからさ」

「私は帰って寝ますんで」

「そこをなんとか!」

「お疲れ様っしたー」


けんもほろろって感じだ。

取りつく島もなく仕事部屋を後にするアシちゃんの背中が遠いよ。

知らない人と話すのってすごく疲れちゃうんだよね。

それを二人っきりで仕事の話なんてもう地獄みたいなもんだよ。

嫌だなあ。

でもやらないと仕事にならないし、このままだとアシちゃんにも嫌われてしまう。

うーん。

やっぱり嫌だ。

でもやらないとなあ。


こういう気が滅入ってどうしようもない時に私が頼れるのは一つだ。

我々ヴァンパイア族が愛してやまない吸血行為だけが、愛しの彼君の血をちゅーちゅーすることだけが私に踏み出す勇気を与えてくれるんだ。

そうと決まればヘンリー君ちに出発しよう。

守衛さんも護衛のタチアナちゃんも顔見知りだし、ノーアポだけどなんとかなるでしょ。

うおーいっくぞー!


そうやって意気揚々とラインバッハ家に向かった私は、その門前で鬼人族に詰問されていた。

彼女の眼光は鋭くて、私は竜を前にしたトカゲのように委縮して縮こまった。

知らない人だ…怖いよぉ。


「誰だてめえは」

「えっと、…あの、私は、ルイーズゥエ…んっ、ルイーゼロッテ、ガルトナーといいまして…ふへへ」

「はっきりしゃべれ」

「ひぃっ! ルイーゼロッテ・ガルトナーですぅ! ヘンリー君に会いに来ましたぁ!」

「こっちには連絡は来てねえんだが」

「アポなしですぅ」

「……そこで待ってろ。動くなよ?」

「はいぃ!」


着流し姿の彼女は私に背を向けると、知っている顔の守衛さんに声をかけて相談し始めた。

私を知ってる人居るじゃん…。

なんでそんなことするの。

ネガ思考に陥ってる間に結論は出たらしく、さっきの着流しの人はすぐに戻ってきた。


「先ほどは大変失礼を致しました。

 ヘンリー坊ちゃんのご友人だと確認が取れましたのでお通しいたします。

 ……で、良いんだよな?」

「良い感じだよアヤメちゃん!」

「あとはお辞儀の角度が少し浅いかな、でも初めてにしては良い感じだよ!」

「へへっ、照れるぜ」


着流しの人の口上と身振りを守衛さんが採点し始めた。

話しぶりを見る限り、鬼人族のアヤメちゃんという人は新人なのだろう。

こうやって適当な客人を相手に練習しているっていうことか。

それはそうと私を出汁にいちゃつきやがってよ。

でもそれに強く出ることはできない。

陰に生きる者は陽の者特有の光のオーラに勝つことは出来ないのだ。


「ああ、ごめんねルイーズちゃん。

 こっちの子は最近入ってきた鬼人族のアヤメちゃん。

 ゆくゆくは坊ちゃんの護衛になるかもしれない期待の新人だよ」

「アヤメ・リュウゾウジだ。宜しくなルイーズ」

「よ、よろしくお願いしますぅ」


呼び捨てぇ…、まあ良いんだけどね。

寄ってきた守衛さんはアヤメちゃんの肩をばしばし叩きながら紹介してくれた。

付き合いなら私の方が長いのに、そこはかとないアウェー感を感じる。


「最近はタチアナちゃん相手に良い勝負をするようになったんだ。

 凄いよねえ」

「そのうち俺が勝つから今に見てろよ」

「いやーまだまだ先は長いって。この間の鍛錬中、タチアナちゃんは一歩も動いてなかったんだよ。

 護衛役になりたいなら動き回るだけじゃなくて踏みとどまる戦い方も覚えないとね」

「まじかよ」


こっちこそまじかよだよ。

あのタチアナちゃんと日常的に鍛錬してるとか約束された強者の卵じゃんよ。

改めて彼女の体つきを見ると、良く鍛えられた肉体が自らに課した鍛錬の密度を物語るようだった。

つまりはかなりの強者ということだ。

ヘンリー君の護衛としては申し分ないね。


「まあいいか。ほらついて来いよ、屋敷まで案内するぜ」

「うん、よろしくお願いね、アヤメちゃん」

「またちゃん付けかよ…。まあいいけどよ」


調子に乗って私もアヤメちゃん呼びしてみたけど、案外すんなり受け入れてくれた。

この子絶対いい子だわ。



◆―〇―◆



「久しぶりヘンリー君、元気してた?

 ちょっと背が伸びたね」

「成長期だからね。そのうちルイズだって追い抜くから」

「ふへへへ、楽しみだなあ」


普人族は成長が早いなあ。

あと数年で成人するんだったよね、きっとヘンリー君も今よりもっとカッコよくなるんだろうなあ。


「今日は仕上がったばかりの原稿を持ってきたんだ」

「また仕上げた直後にうちに来たでしょ。

 ちゃんと休まないと体を壊しちゃうよ?」

「ヴァンパイア族は体だけは頑丈だからね。

 このくらいへーきへーき」


血液飲んでれば一週間くらい寝なくても平気だしね。

不摂生しても何とかなるから、ヴァンパイア族は皆絵描きだのエンタメ製作側に流れちゃうんだろうなあ。

私は強固に封印処理した鞄から原稿を取り出す。

ヘンリー君は私の表向き知られているもの以外に、裏のペンネームも知っている数少ない人物だ。

今回持ってきたのは裏の方で連載している漫画。

いわゆるえっちなやつ…の大人しいやつだ。

ヘンリー君は私の漫画を受け取るとその場で読み始める。

私はというと、彼が読む隣に座って、彼の姿を上から下までじっくりと鑑賞する。

はー、まつ毛なっが。その場にいるだけで元気があふれてくるよ。

今更ながら未成年に自分の書いたエッチな漫画を読ませて感想を聞くなんてかなり不味い気がしてきた。

まあ未成年って言ってもあと数年もすれば成人するんなら、誤差みたいなもんでしょ。


「……どう?」

「良いね」


読了した彼に問いかけると、ヘンリー君は満足げな顔でうなずいた。


「安易なエロに走らないで、少年少女の付き合う寸前のいちゃいちゃと、感情の揺れや情緒を中心に据えてるところが特にいいよ。

 こういうので良いんだよ」

「ふへへ、大絶賛だあ」


ヘンリー君ったら編集さんと同じこと言ってる。

たまにおっさんみたいなこと言うんだよね。

私の漫画が売れるようになったのはヘンリー君のおかげでもある。

女性層以外にも男性読者を取り込めるようになったのは、ひとえに彼の存在が大きい。

ネームで悩んでるときにアドバイスをくれたこともあったし、何より私のモチベーションの維持に大変役立ってもらってきた。

頑張った後にご褒美があるから、辛い作業にも耐えられる。

つまりは今日この時の為の苦行だから意味があるのだ。


私はヘンリー君に例のご褒美をもらおうと口を開いて、しかし中々言葉にできずに何度かパクパクと開閉させる。

いつになってもこの瞬間は恥ずかしい。

自分の卑しさを自覚するようで、その状況に興奮する自分もまた存在している。

思わず俯きかけた私の口元に、ふにっとした感触が広がった。

いつの間にかヘンリー君が差し出した手首の内側に、私の唇が触れていた。

そっと彼の顔を伺う。

いいんだよ、と言葉にせずに言ってくれていた。

右手の手首を差し出したまま、残った左手で私の頭をそっと撫でて、私にそれを促してくれる。

彼の視線から逃れるようにぎゅっと目を瞑り、恥じるように、許しを請うように、私は彼の手首に牙を突き立てた。


甘い。

芳醇な香りと言葉では言い表せない多幸感が脳髄を犯し、続く濃密な血の味が思考を塗りつぶす。

まるで月から零れた雫のようだ。

ヴァンパイア族の口にするその言葉に嘘偽りはない。

正しく言葉通り、我らヴァンパイア族が抗うことが出来ない月光そのもの。

度し難くも美しく、抗いがたく私を導くヘンリー君の味だ。


吸血行為に痛みはない。

量にして数滴の雫程度の量を私は舐めとって、繰り返したことで癖にになった回復魔法で傷を治療する。

もっと飲みたいという欲求をねじ伏せるのは大変だった。

名残惜しさに耐えきれず、傷跡のない彼の綺麗な手首に何度も唇を落とし、甘く噛みついて、舌を這わせる。

吸血の代償行為だと自分で自覚していても、私には止めることはできない。

いつまでも手首を咥えて離さない浅ましい私を、ヘンリー君は突き放すことなくこの情動が収まるまで頭を撫でて優しく受け止めてくれていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――

特に話のオチはない

難産の割にはあんまりえっちに書けなかったが許せサスケ

僕ヤバは良いぞ


≪TIPS≫ヴァンパイア族

夜のつよつよタンク種族。

肉体強度と治癒能力に優れ、特に能力が最高潮となる満月の夜ではほぼ不死身である。肉体がミンチどころか血煙になろうとも即時再生して殴り返してくる光景は正しくホラーのそれ。

赤血操術みたいなこともできる。

普人族の血を好み、他種族の血は栄養補給のカロリーバーみたいな扱いをされる。

なお肉も野菜も穀物も普通に食べる。主食は米。

陰キャ属性で引きこもり気質のため、文化・芸術方面への種族的な傾倒が強い。

普人族が長命種族と付き合うための抜け穴その1。

他種族に血を分け与えることで眷属とすることができる。愛する伴侶に行うような神聖なものであるため、ヴァンパイア族1人に対して眷属はほぼ1人である。

悪魔族と近隣種であるため、つがいに対しての噛み癖も同じ。

首筋からの吸血は伴侶にのみおこなう行為であり、キスマークであり、マーキングであり、この世の唯一人に捧げる愛の証である。

性癖は噛み癖と吸血行為。

隠れM属性なのも悪魔族と共通している他、ベッドの上で主従が逆転して、男から逆に組み敷かれて噛みつかれることをヴァンパイア界隈では「リバカプ行為」と呼称して親しまれている。

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