第12話 アラクネ族エレン・ヴェークマンと勝鬨の声(無言)
ちなみに前回の最後でエリー同伴で謝罪に行ったアヤメちゃんは、門前で遭遇したタチアナちゃんに有無を言わさず再度ボコられたよ。可愛いね。
名称:エレン・ヴェークマン
体格:82cm、上半身がロリで下半身が蜘蛛(ハエトリグモのような太く短い脚と腹)、サラサラショートヘアーの青い髪
種族:アラクネ族
年齢:13歳
備考:色を知る年頃
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アラクネ族の朝は早い。
朝日とともに目が覚める習性は狩猟種族の血によるものだろう。
都市部に生活拠点を移してもこの身に刻まれた本能には抗えない。
背伸びをして眠気を振り払った私はベッドから降りると、昨日寝る前に絞っておいた糸束に目をやった。
朝日に輝く銀の糸。
アラクネ族にとっての成人の証。
この国の法律上の成人は15歳からだけど、2年程度は誤差のようなものだ。
1階からは私よりも前に起床した母が朝食の準備をしている音がする。
あまりのんびりしていると朝食を抜かれてしまう。
私は手に取ったアラクネ糸を机に戻して1階の台所へ向かうのだった。
◆―〇―◆
ラインバッハ家の修練場に木剣がへし折れる音が響き、角の生えた巨体が宙を舞うのが見えた。
殴り飛ばされた人は鬼人族のアヤメといって、ヘンリーをストーキングしてタチアナにボコられた人だそうだ。
前科だけを見るなら犯罪者予備軍の彼女がこうしてこの家の門を潜ることを許されたのは、私の友人でもあるエリーの関与によるものらしい。
エリーの口利きで警備員の一人として雇うことになった彼女は、今は試験期間ということでタチアナに扱かれつつ、ヘンリーへの対応に問題ないかを図っている最中らしい。
芝生が剥げて踏み固めた地面にはいくつもの折れた木剣が転がっていた。
ヘンリーに言い寄った女ということで、彼に会いに行くついでに直接確認しに赴いたのだが、やはり杞憂のようだった。
エリーもタチアナもそういった気配には敏感な質であるし、なによりもあのクラウディア様を欺くことなど不可能だ。
彼女たちが曲がりなりにも許可したという時点で、アヤメの人間性は証明されたと言っていいだろう。
それでもこの目で見もしないで判断することなんて私には出来なかった。
狩人の性といったところだ。
タチアナに殴られては即座に飛び起きて突っ込んでいく様子を見るに、アヤメと話が出来るのはしばらく先になるだろう。
木剣の殴打音を背に、私はヘンリーの元に向かう。
激しく打ち合う二人から少し離れた整地された芝生の上で、ヘンリーは一人で剣の型を練習している。
彼の背中が目に入った瞬間、私は本能的に気配を殺して隠密歩行に切り替えた。
アラクネ族の足は音を出さない。
物陰から音もなく忍び寄り、強靭な脚力で間合いを食いつぶして獲物を捕らえる狩人が私たちだ。
無防備に背中を見せるヘンリーが悪いんだからね。
普通に声をかけるなんてもったいなさ過ぎて我慢ができない。
私は本能が命じるままにヘンリーの背中に飛びついた。
「つっかまえた!」
「ぅわあ!…ってまたエレンか。びっくりした」
「捕まる方が悪いのよ、油断大敵ってね」
もちろんヘンリーに怪我なんてさせてはいない。
綺麗な芝生の上であることを差し引いても、狩りについて熟知しているのが私たちアラクネ族なのだから、不意を突いて無傷で押し倒すぐらい造作もない。
更に言えばタチアナから師事を受けるヘンリーには彼女の教えた技術がちゃんと根付いている。
空中で位置を入れ替えて組み付いたまま背中から芝生の上に落とすと、彼はきれいに受け身を取ってみせた。
私はそんなヘンリーのお腹の上に跨って、彼を見下ろして顔を寄せる。
ヘンリーを押し倒しているという状況に、腰から走る快感を堪えきれず思わず笑みがこぼれた。
「ぅわあ、だって。ふふふ」
「お、驚いたんだから仕方ないでしょ。
なんでいつもこうやって背中から飛びついてくるさ」
「ヘンリーの背中が無防備だったからよ」
アラクネ族にあんなにも蠱惑的な背中を見せつけておいてなんて言い草だろうか。
ヘンリーは自身の卑猥さを自覚するべきだと思う。
いつもいつも私の本能を刺激するような姿を見せつけてくるのが悪いんだ。
そうやって得意げな私がヘンリーの頬っぺたをぐにぐにと捏ねていると、ヘンリーが急に私の背中に手を回してきた。
思わず手を離した私を胸に押し付けると、まわした腕で支えながらヘンリーは身を起こしたのだ。
びっくりして声が出なかった。
背中に回った手はそのままに、胡坐をかいた膝の上で彼に寄りかかる形だった。
私は頬をくっつけたまま見上げると、悪戯を成功させたようなヘンリーの顔。
してやられた。
勝利宣言のつもりなのだろう無言で笑う彼に「まいった」とばかりに体重を預けて、改めて彼の胸に耳を寄せる。
この少年には受け止めた好意にそれ以上の好意で返そうとする度し難い性質があった。
全く持って度し難いにもほどがある。
まるで底無しの沼のように一度入り込めば最後、二度と抜け出せない。
少なくとも自分には無理だという確信があった。
「ねえエレン、何の用事でうちに来たの?」
「ふーん」
「悪戯したのは謝るから、へそ曲げないでよ」
怒っているのは悪戯にではなく、むやみやたらと性癖を捻じ曲げてくるところだぞ。
現に今も困った顔をしながら私の髪をあやす様に梳いている。
そういうところだぞ。
「私ね、この間から糸が出せるようになったの」
顔を背けて私は言う。
彼はこちらを見ているのを肌で感じるけど、流石に目を合わせて言うのは気恥ずかしい。
誤魔化す様に彼の胸に頬を擦りつける。
「だから、ヘンリーの服を作りたいなって」
そっと窺うように彼を見ると、ヘンリーの視線とかち合った。
「良いの?」
「良いのよ」
ヘンリーは悩ましいと言うように眉を寄せた。
てっきり喜んで了承するとばかり思っていた私にとって、その反応は思いもよらないものだった。
呼吸を忘れて凍り付く私にヘンリーは困った顔で続けた。
「アラクネ糸って高級品でしょ? それにエレンに返せるものがないし」
服なんて作ったことないんだと彼は言う。
ああ、そっちか。
服を作るだけの労力に釣り合うものが返せないと言ってるのか。
表情一つ、言葉一つでこっちの情緒をぐちゃぐちゃにして。
本当にそういうところだぞ。
「良いのよ。私の分も一緒に作るから」
「本当に良いの?」
「ええ。だから出来上がったら一緒に着替えて頂戴ね、約束よ」
「分かった。約束する」
はい言質取った。
約束したからね。
反故にしたら本当に許さないんだからね。
何度も念を押す私に、何かお返しを考えておくよ、と嬉しそうに了承する彼を見て、私は内心でガッツポーズしながら勝鬨を上げた。
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大胆な結婚の約束は幼馴染の特権
≪TIPS≫アラクネ族
成長しても100cm程度の身長にしかならない永遠のロリ。
成人男性と並んで立つと股間のあたりに頭が来る。
腕力に劣るが俊敏性、隠密性に優れた生来の狩人。
蜘蛛の尻にあたる部分から吐き出す糸はアラクネ糸と呼ばれ、滑らかな手触りと強靭さを併せ持つ高級品であり、アラクネ族の女性が初潮を迎えるのと同時期に糸の生成が可能になる。
アラクネ族が吐き出す糸で最初に作るのは将来の伴侶と自分の結婚衣装であり、その次に作るのは自分が生むだろう子供の産着。
婚姻した後も出産するまで延々と家族の衣類を作り続ける為、市場に流れるアラクネ糸の多くは経産婦の吐き出した糸である。
寒さに弱いため伴侶の体で暖を取とるというのが彼女たちの主張であるが、別に冬でなくとも暇があれば張り付いている。
意中の男性に対する追いかける、押し倒す、縛り付ける等の狩猟に似た行為は求愛行動の延長。
伴侶と認めた男を見初めた場合、どこまで逃げようとも追いかけて捕獲する執着心が特徴であり、彼女たちのテリトリーである森の中で逃げ切ることは困難を極める。
足よりも深い水場だと浮き輪のように胴体が浮かぶ為、アラクネ族に追われた場合は泳いで逃げることは森に近い場所に暮らす者の常識だが、多くの場合で獣人族と共生関係にある為に逃げ切れた者はいない。
好きな体位は対面座位と騎乗位。
満足するまでは絶対に上から降りないし、満足しても上から動かない。
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