第17話 コラムニスト(心得)

  妻とふたり健康保険と年金の手続きのため市役所に来ぬ(医師脳)


 窓口で説明を受けているうち少しずつ〈無職〉の老いの身を痛感させられる。

「いざとなったら医師免許証は使えるのだから」と強がってはみるものの……。


 そこで捻りだしたのが新しい肩書――(心得)付でも憧れの〈コラムニスト〉である。


 コラムニストなら、ボブ・グリーン。


 さっそくアマゾンで検索し、新品のなかから最安値のものを発注!


 ところが宅急便で届いたのは、講談社英語文庫『CHEESEBURGERS』だった。

「ボケ予防になるだろう」と負惜しみで辞書を取り出す。


 英文の意味は取れても話のツボが分からぬまま読み進む……。


『Cut』野球チームをクビになった少年時代の悲話は心に響いた。


 そして自分の悲話二題も思い出す。


 青森市立橋本小学校に通っていた頃、クラスごとに野球チームがあった。

「今日も打たせてもらえなかった」と母に話した翌朝、4枚の小座布団が入った袋を持たせられた。

 四角形3枚のほかに(ホームベースのつもりの)五角形を、夜なべで作ってくれたのだろう。

「ゆきおのおかあさんはスゴイな!」とチームメートは喜んだが、レギュラーで打った記憶はない。


 医者になってからは、大学病院の医局対抗野球チームに(女医さん以外は皆)入れられた。

 胸に〈OB & GYN〉のユニフォーム姿で、バッターボックスに立つ。

「曲げてやれ!」と後ろでキャッチャーが怒鳴る。

 ――サインは出さないの?

「カーブは打てない」と、ハナから読まれていたのだ。

 それでも数年間は「8番ライト中村君」を続けられた。


 誰にだって得手不得手はあるだろう。

「医者でコラムニスト」なんていう人生も悪くはないぞ!


(20220901)

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