第9話 ウイルスの呟き
当初は、対岸(中国武漢)の火事だと思っていた新型コロナウイルス感染症。
それが今や(人類の敵とばかり)各国が必死に撲滅を図っている。
逆の立場で見た場合、ウイルスは人類を敵だと思っているのだろうか?
「敵だなんて一度も思ったことないよ」と〈新コロ〉ウイルスは呟いた。
地球誕生は46億年前で、DNA生物が出現したのは38億年前(それまではRNAの世界)らしい。
鳥類最古の化石は、中国の1億6000万年前の地層で発見された。
地球上にネズミが出現したのは6000万年前、ウシやブタの祖先が出現したのが5400万年前だという。
つまり(人類の誕生以前に)ウイルスはこれらの動物に寄生していたのだろう。
時は流れて、人間が農耕生活を始めると(家畜の飼育などにより)動物への接触が増えて……。
そんな状況が続くうちに動物のウイルスが人間へ感染し(ウイルスも人間に適応して)人間同士で広がるようになった、と推測されている。
○人類の傲慢に対する警鐘を先住なるウイルスが鳴らすと覚ゆ
ウイルス本体は(子孫を作るための)遺伝情報だけなので、それを動かす代謝系を(ウイルスが寄生する)細胞に依存している。
しかも(自身に細胞膜がないため)寄生する細胞のなかで急速に天文学的な数のウイルスが産生される。
○ウイルスは「彷徨へる遺伝子」まさにいま爆発的に世界をかけをり
もし新型ウイルスによる世代交代が起こらなかったら(やがて人類が感染防御免疫を獲得し)ウイルスは宿主をうしない、自らも消滅する運命をたどる。
大きな変異による〈新型〉の誕生は、ウイルスの生き残り戦略なのかも……。
「お互い地球に住む者同士、寛容と多様性がなくっちゃ」と呟いて、〈新コロ〉ウイルスは電子顕微鏡の視野から消えた。
(20200701)
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