板挟みと思惑の始まり

『…貴女と結婚する気がします。』


その唐突な告白がされたのはいつだったか…。


彼女は悩んでいた。笹木馨ささきかおる28歳、独身。某老舗出版社の編集部員を続けて丸6年。売れっ子作家である青葉想あおばしょう先生の担当編集でもあり、そのハードさから仕事仕事で擦りきれた毎日。誕生日まであと僅か…。そう…もう間もなく、彼女は20代最後の一年を迎える事となる。


「はぁ…」


思わず溜息が漏れた。仕事場のデスクにもたれ掛かり、辿り着く事のない思考を巡らせる。

『別に特別な訳ではないけれど、時々考えてしまう。あの人と一緒だったら……なんて、ありがちだけど。』


それは彼女自身が驚くほど…途方もなく悲しいくらいに、こと恋愛に関しては行動力0というのも事実であった。しかし、行動する以前から報われない恋と踏んでいる。何故なら…彼女のお相手、天音由比あまねゆいは小柄で華奢な正真正銘の可愛らしい女性だからである。


えっ?どうしてそんなに詳しいのかって?


…申し遅れました…私、ありがたい事にこの二人が通っている喫茶『Hatman』のマスターを務めております。石神紫郎いしがみしろうと申します。長々とお話しておりますが、この二人の恋の行方がどうなっていくのか、宜しければ今暫くお付き合い下さい。

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