番外編 愛人にして下さい。

 私、ルディア=フェルミトはロイス=ヘーゼルグと結婚致しました。


 現国王であるお父様は、次代の王を私に…とお考えのようでして、ロイスを婿に迎える事になったのです。


 毎日仕事で忙しい二人ですが、充実した生活を送っていると思います。


 国民の皆様に、より良く暮らして頂く為の政務に励んでおりますのよ?



 ですが、どこにでも阿呆という者はいるようでして……


 ホントどこから湧いて出て来るのでしょうか?




「ルディア王女殿下。是非私を愛人にして頂きたい。」


「結構です。」


「ありがとうございます!」


 はい?


「このヘーデル=グレテル。きっと貴女様を幸せにしてご覧に入れます。」


「何か勘違いをしているようですね。」


「王女殿下。どういう事でしょうか?」


 どういう事とはこちらが聞きたい。


「結構です。そう言いましたが、聞こえませんでしたか?」


「しっかりと聞いておりました。結構です、と肯定のお言葉を頂きました。」


 バチィ!


「あばばばば!」


「断りの意味で言いました。 撃ちますよ? 雷魔法。」


「も…もう…撃っており……す。」


 ガクっと倒れるヘーデル。


「この忙しい時に、下らない事で時間を使わせないで下さい。」


 グレテル家はこの国の有力貴族。その家の次男坊から緊急の要件で謁見したいと言われ、機会を設けたらこれだ。


 子供の教育もまともに出来ない家なのだろうか?


「全く……。」


 こんな事はこれっきりにして欲しい。


 そう思っていたのだが……。





とある夜会にて


「王女殿下是非私を!」

「いえ。俺こそが!」

「いやいや私だ!」


 こうやって様々な貴族家の次男三男から、愛人にしてくれと引っ切り無しにお誘いを受ける。


(こいつら……。消し炭にしてやろうかしら?)


 バチィ!!!


「何なのですか貴方達は。 撃ちますよ? 雷魔法。」


「王女殿下。既に撃っております。」


 近衛兵に窘められる。


「一体どうしてこんな風に阿呆が湧いて出るようになったのかしら。王都には阿呆が湧く泉でもあるの?」


「ええと……。」


 近衛兵が言い淀む。何かを知っているようだ。


「特に罰したりしないので、続きをどうぞ。」


「では……。プロポーズのお言葉によるものではないかと。」


 プロポーズの言葉? 全く意味が分からない。


「どういう事か説明なさい。」


「結婚しようぜベイビー! は平民が用いる言葉です。砕けた言葉遣いを好む貴族というものは得てして、愛人を囲うものだと聞いております。」


「それで?」


「王女殿下がそんな貴族達と同じような方だと勝手に勘違いされ、愛人を申し込む輩が湧いているのです。」


 そういう事か。


「プロポーズの言葉を広めた奴を調査して連れて来なさい。」


 雷魔法100連発の刑にしよう。







「王女殿下。調査した結果、広めた人物を特定致しました。」


 随分と早いわね。


「早く連れて来なさい。」


「はっ。」




 近衛兵が連れて来たのは予想外の人物だった。


「どうしたんだい? ルディ。呼ばれていると聞いてやって来たんだが……。」


「ロイスこそどうしたのよ。 仕事中だったんじゃないの?」


「いや、ルディが呼んでるって彼が教えてくれたんだよ。」


 近衛兵に視線を向ければ、無言で膝をつき頭を下げている。


「噂を広げた人物を連れて来いって言ったじゃない。」


 確かにロイスを連れてきてくれたのは嬉しいけど。


「恐れながら申し上げます。ロイス様こそが、その人物で御座います。」


 え?


「噂って何だい?」


 私はロイスに事情を説明する。


「……ごめん。ルディと結婚出来たのが嬉しすぎて、私が言いふらしてしまったんだ。」


 な、なによそれ……嬉しいじゃない。


 そんな風に言われたら怒れないわ。


「そう……だったの。」


「ごめん。そういう事なら、私が責任を持って言い寄る馬鹿共を排除しよう。」


 ロイスの目……本気だわ。今の彼に任せると、次から次へと私に言い寄る輩を処刑してしまいかねない。


「大丈夫よ。私が穏便に解決するから。」


「本当に大丈夫かい? 私に任せてくれて良いんだよ?」


 ロイスに任せると血の雨が降りそうだ。


「大丈夫。私、説得は得意なのよ?」


 そう? と言って渋々彼は引き下がった。



「という事で、愛人になりたい阿呆達とその親を全員連れて来なさい。」


「ぜ…全員……ですか?」


「そう。全員よ。」




ある日の謁見の間にて


「皆さん、良く集まってくれましたね。本日は私の愛人になりたい方と、そのご両親に足を運んでもらいましたが……違うという方は退室して下さい。」


 退室する人は誰もいないみたいね。


 総勢百五十名。良くもこれ程阿呆が集まったものだわ。


「では、私からお伝えしたい事があります。」


 なんだ? 一体何を言うのだろうか。 と室内が騒々しくなる。


「お静かに。伝えたい事は一つ、愛人は不要。それだけです。」


 シンと静まり返るが、その次の瞬間には……


「いやいや、やはり貴き者と言うのは遊んでこそ……」

「愛人は必要ですよ。」

「照れていらっしゃるのかしら……」

「質の低い愛人はいらないという事では?」


 まぁ…良くも騒ぐこと。


 根絶やしにしてしまおうかしら?



「雷光。」



 バチバチバチィ!!!!!



 室内は眩い光に包まれる。


 こう言う時は中級魔法が役に立つわね。


「愛人など不要。次に余計な事を言ったら撃ちますよ? 雷魔法。」


「王女殿下。既に撃っております。」


「撃ってないわよ。本当の雷魔法、見た事ないの?」


 近衛兵は後ずさり言葉を返す。


「い…いえ。出過ぎた真似を…失礼致しました!」


 そんなに怯えなくても良いじゃない。


「と言う事で…今後愛人がどうとか言った貴族家には本気の雷魔法をプレゼント致します。」


 皆青ざめているわね。


「どうぞお気軽に相談して下さいな。ちなみに一発で王都が壊滅する威力だと言っておきます。」


 我先にと全員逃げ出してしまった。


「王女の前から何も言わずに逃げるなんて、不敬罪よ。」


「……穏便に説得するのでは?」


 何を言っているのかしら?


「説得したじゃない。」


「そ…そうですね。」






 この後、二度と愛人が…などと言う輩は現れなかった。王女の雷魔法が余程恐ろしかったのだろう。


 しかし、次の困った問題が発生する事となる。


 弱めの雷魔法を自分に撃って欲しいと言う新人類が誕生したのだが……それはまた別のお話。

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浮気相手の面倒見ろとか寝惚けてるんですか? 撃ちますよ? 雷魔法。 隣のカキ @dokan19

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