最終話 撃ちますよ? 雷魔法。

 フェルミト子爵邸には王家からの使者が訪れていた。


「王よりのお言葉です。」


 一応礼儀として子爵は膝をつき頭を垂れる。


「フェルミト子爵よ。直ちに謝罪に来れば寛大な心で許してやる。」


(何と愚かな…。)


「お言葉は以上です。」


「使者殿。それは何かの冗談ですか?」


 使者は申し訳なさそうに言葉を発する。


「…王は、本気でフェルミト子爵が謝罪に来るものだと思っておいでです。」


「そうですか…。近いうち王都は戦場になりますので、使者殿は王宮に戻られない方が宜しいかと。」


「ご心配頂きありがとうございます。既に家の者には王都を出るよう指示しています。当然王宮には戻りません。」


 苦笑いし、それではと言って使者は立ち去った。


「王宮に仕える者にまで見限られてしまっているようですね。」


「事情を知っている者であれば、誰でもそうなるだろう。」


 使者が去った後、フェルミト家は早速王家へ宣戦布告を行う。


 その際、あちら側から再度の謝罪要求があったが、当然突っぱねた。


 1週間後には、通常の兵を500と魔法士10名を伴い、フェルミト子爵とルディアは王都へ侵攻を開始した。


(愚王もいよいよこれでお終いね。)


 王軍はフェルミト家の魔法士により次々と撃破されていく。中にはフェルミト家の旗を見ただけで逃げ出す部隊もあった。


 そして、とうとうフェルミト軍は王宮へと辿り着く。


「城はなるべく壊さないようにして下さい。」


(修復箇所が少なければ、それだけ戦後が楽になりますしね。)


 近衛兵は流石に強かったが、それでも一級魔法士レベルの相手にはなり得ない。


 圧倒的戦力で即座に占拠してしまったフェルミト軍。


 フェルミト子爵とルディアの前には、捕らえられた王が膝をついている。


「貴様ら。こんな事をしてただで済むと思っておるのか!」


 捕らえられた王は、未だ自分の立場が理解出来ていないようだ。


「ただで済まないとはどういう事でしょう?」


「そんな事も分からんのか。他の貴族が黙ってないぞ!」


(こんな王だったとは……。フェルミト家が居なくても、早晩国が潰れていたかもしれませんね。)


「ご心配には及びません。挑んできた貴族も潰してしまえば良いのですから。」


「……謝れば、多少の罰で許してやるぞ?」


 バチィッ!


「ギャッ!!」


 強力な紫電が、一瞬だけ王を包み込む。


「こらこらルディア。王を魔法で攻撃するのはマズいだろう。」


 全くお転婆だな、と言わんばかりに笑いながらルディアを窘める子爵。


「申し訳ありませんお父様。雷魔法の調子が悪いようです。」


 ルディアの体は帯電し、雷魔法を自在に使用できる事を示している。


「そうかそうか。であるならば、仕方なし…か。」


「ぐっ…謝れば許してやると……」


 バチィッ!!!


「ギャァァァッ!」


 先程よりも強力な雷魔法が輝き、周囲にはオゾン臭が広がる。王は気絶してしまったようでその場に倒れてしまう。


 王族である以上、それなりに強力な魔力を持っている為、魔法耐性も平民の比ではない。


 その事を理解していたルディアは、これ幸いと平民ならば致死レベルの雷魔法を放っていた。


「まさに愚王ですわね。状況も理解出来ないばかりか、謝罪要求など……。」


「宰相を捕らえました!」


 突然王の間の扉を開き、フェルミト家の兵3名が縄で縛られた宰相を連れて来る。


「これは宰相閣下。ご機嫌いかがですかな?」


「……まあまあです。子爵家へ使者を送った段階で、こうなるとは思っていました。」


「ほう。分かっていながら使者を送ったのですか?」


「私では王をお諫めする事が出来ませんでした。」


 申し訳なさそうに俯く宰相。彼は随分優秀だと噂されている。若しくして宰相の地位にいる事が何よりの証明である。


 それでも王を諫める事が出来なかったのだと言う。恐らく諫言はしたのだろう。王が取り合わなかっただけで。


「優秀な者が居ても、上が無能ではどうしようもありませんね。宰相閣下は私達側に付くおつもりはありませんか?」


「……しかし。」


(そう簡単に王を見捨てられない…か。信頼出来そうですね。)


「既に王家は滅ぶ運命が決定しています。宰相閣下まで付き合う必要はありませんわ。是非民の為にその力を揮って欲しいですね。」


 様々な葛藤があるのだろう。彼は暫く悩んだ末に……


「……謹んでお受け致します。」


 フェルミト側につくことを了承した。


「それでは、王族を処刑しろ。」


 子爵は兵に命ずると、直ちに処刑が執り行われる事となった。


 王は最後まで抵抗し、王に対して不敬だと喧しく叫んでは周囲を呆れさせる。


 その後、クリミア王家は滅び、フェルミト家が王家に取って代わる事となった。




 戦後処理は宰相の助けもありさほど苦労する事もなく、他の貴族家からの反発も全くと言っていい程無かった。


 クリミア元王家は、余程貴族達の反感を買っていたのだろう。


 そして、すんなりとフェルミト王家が誕生し、国名はフェルミト王国になった。


 政治に関しては私が取り仕切る事になった。宰相—ロイス=ヘーゼルグを部下に付け、数々の新しい施策を検討している。


 クリミア王は自分の私腹を肥やす事以外にあまり興味が無かったようで、ロイスが打ち出した施策をかなり却下していたようだ。


 王の私腹を肥やしつつも民の為にもなる政策。それであれば、却下される事はなかったとの事。


「そんな王だったのであれば、もっと早く滅ぼしてやるべきでしたね。」


「いえ、宰相だった私の力不足です。」


「ロイス様。貴方が力不足だと言うなら、元王は無能という言葉でさえ褒め言葉になってしまいます。」


「そう言って頂けて、幸いです。」


 ロイスは優秀で真面目。気遣いも出来て意外と優良物件かもしれない、とルディアは思っていた。


(でも私からアプローチしちゃうと、きっと彼は断れない……。そんな形での結婚はちょっと嫌ですね。)


「ところで、ルディア様は御結婚されないのですか?」


「私は婚約破棄された上、特級レベルの魔法士です。嫁に欲しい殿方はきっといませんよ。」


(自分で言ってて悲しくなるわ……。)


「はぁ……。」


「あの……。」


 ロイスが顔を赤らめ、言い難そうに口を開く。


「もし、その……結婚願望があるのでしたら、私ではいかがでしょうか?」


(え? 冗談? からかってます?)


「ロイス様も冗談をおっしゃるのですね。」


「いえ、冗談ではなく…本気なのですが。」


 ……。


「それは民達が言うところの……結婚しようぜベイビー! 俺が幸せにしてやんよ子猫ちゃん。って事ですの?」


「まぁ…その言い方はやめて頂きたいですが、そういう事です。」


(本当に…? 今を逃したらチャンスなんてもう無いかもしれません!)


「します! 是非宜しくお願いしますわ!」




 私とロイスは結婚した。誰が広めたのか、プロポーズの言葉は「結婚しようぜベイビー!」だと国中に知れ渡っていた。






 誰ですか広めたの?



 撃ちますよ? 雷魔法。

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