第6話 真実の愛、破滅への道。

「クソっ! ルディアが特級魔法士だと!? 何だそれは!」


「父上?! 大丈夫ですか?」


 戻ってきた侯爵に対しキルトが声を掛ける。


「お前の元婚約者が特級魔法を使って見せたのだ! お前は知っておったのか?!」


「はい。あれで侯爵家自慢の庭を破壊したのです。」


「何故その事を報告しない!?」


「え…と、後で良いかと思っていたら忘れていました。」


 は?


「マリアンヌと会う約束もありましたので…。」


「…事の重大さが分かっているのか?」


「それは勿論です。ですから、今報告しました。」


 ちゃんと報告したでしょう? キルトはそう言いたげだ。


 侯爵は絶望し、その場に膝をついてしまった。


「私は、こんなにも愚かな息子を…ルディアに頼もうとしていたのか…?」


「それはあんまりな言い方ではないですか!」


「…一人にしてくれ。私はやる事がある。」


「え? そうなのですか? では出掛けて参ります。」


「待て…どこへ行くつもりだ?」


「マリアンヌの所へ。」


 彼には事の重大さが全く分かっていないようだった。


 侯爵は心の底から彼に失望し、もう好きにしてくれと匙を投げる。


「…そうか。」



 キルトが退室した後、侯爵は手紙を書くことにした。



 自分が如何に息子を理解していなかったのか。溺愛するあまり曇っていた目が今回の一件で晴れた事。これ程の愚か者をルディアに支えてもらうよう頼んだ事。それに対する謝罪と賠償に関して。それとは別に降伏する旨。


 上位貴族としてのプライドを投げ打って、これらを手紙にしたためる。



(本当に申し訳ない事をした…。親でも呆れる馬鹿息子を血の繋がらない他人に任せるだと? 私もまた愚かであった…。)



 侯爵は決して無礼な対応をするなと厳命し、使いの者に手紙を持たせ送り出した。



 数日後には会談の場を設け、フェルミト子爵家とゼンベル侯爵家は第三者立ち合いの下、滞りなく和平を結ぶ。


 巨額の賠償と領地の割譲もスムーズに行われ、その際にゼンベル侯爵は上位貴族とは思えない程に丁寧な謝罪をしてみせたと貴族達の間で話題になった。





「お前を廃嫡し、地下牢へ幽閉する。」


「何故ですか!?」


「…その何故か、が分からないお前を野放しにするのは危険だからだ。」


「マリアンヌとの結婚はどうするのです!」


「マリアンヌとやらは調査した結果詐欺師だと分かった。お前が愚かだとは言え、貴族を騙したのだから死罪だ。」


「そんな…。」


「すまない…お前がこれ程愚かだともっと前に気付いていれば、廃嫡後に好きな女と結婚させ別邸を与え慎ましく暮らさせてやれたのだがな……。」


「それならば、マリアンヌの死罪を取り消して俺と同じ牢に入れて下さい。」


(信じられない程の愚か者だな。)


「…そうか。分かった。」



 そうして地下牢に閉じ込められた二人だったが、マリアンヌが無抵抗のキルトを度々殴りつけ罵倒していると報告が上がってきた為、彼女を牢から出し処刑した。


 その後、彼女を失ったキルトはどんどん衰弱していき、病で命を落とす事となる。


(我が息子にとっては、本当に真実の愛だったのかもしれぬな…。)









「予定とは違いましたが、一先ず侯爵家との争いは終わりました。次は王家ですね。」


「ああ…。ルディアの言う通り各貴族家へ檄文を発したぞ。」


 王家の理不尽さ、貴族同士の戦争への非常識な介入、これらの事を糾弾する内容で檄を飛ばしたのだ。


「これで、あとは王家の出方次第ですね。素直に謝罪し王位を渡すなら良し…さもなければ……。」


「力で踏み潰すわけだな。」


「はい。元々現在の王家にそれ程求心力はありませんでした。王家と戦争になった際には各貴族家が無関心を貫いてくれればそれで良いのです。」


 最悪、貴族家が参戦してきても全く問題はない。


 仮令王国中からかき集めても、フェルミト家に敵う戦力にはならないのだから…。





王宮では……


「ご報告申し上げます!」


 王は頷き続きを促す。


「先の戦にて、フェルミト家には一級魔法士10人以上と特級魔法士の存在が確認されました!」


「何だと!?」


 驚愕し玉座から立ち上がる王。


「加えて申し上げますと、王家に仕える魔法士達は全滅致しました!」


 これで王家には、通常の兵しか戦力が残されていない事になってしまった。


「王よ。フェルミト家へ謝罪すべきです。」


 宰相は謝罪を提案するが……


「それはならん! 王が下位貴族へ謝罪など聞いた事もないわ!」


 王は状況が見えていないようで、怒鳴り散らす。


「しかし…このままでは戦争になります。どうやって勝つおつもりですか?」


 実際、勝ちの目など万が一にもないのだ。宰相には状況が見えていた。


「向こうが謝罪するなら、今回の一件は特別許すと使者を出せ。」


「ですが……。」


「くどいぞ!」


「……はい。仰せのままに。」


(王に余計なプライドさえなければ…この国も終わりだな……。身の振り方を考えねば。)


 王は自身の権威が絶対だと思っており、向こうから謝罪してくるものだと本気で思っていた。

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