第14話  絵師と駆け落ち?

 秋も深まってきた頃にあたくしは、エドワゥから1本のリリエラという高価な花を頂きましたの。


 月夜の奇麗な日でしたわ。

 エドワゥはあたくしの前に跪いて、1本のリリエラの花を渡して、こう言いました。


「お嬢様、いえ、カミーユ・ヴィトレーク伯爵令嬢。僕と結婚して下さい」


 あたくしは思いがけない、プロポーズに目をパチクリしてしまいましたわ。

 そう言えば……数か月前にもエドワゥは何か言ってましたわ。

 その時は、大笑いであしらいましたけど。


「エドワゥ……?あたくしはあなたのような貧乏人とは結婚はしませんわよ?」


「そう、おっしゃいますな。僕はそんなに貧乏でもありませんよ。

 僕の絵を扱っても良いという画商とも契約が出来つつあるんです。」


「まぁ!!この家を!!あたくしや、お父様を捨てて出て行く気ですの!?」


「お嬢様……ミレーユ様の結婚も決まったのですよ。この前描いた絵で最後ですよ」


「まあ!!まぁ!!エドワゥ!!だからって、リリエラの花1本であたくしを落とせると、思ってるのですか!!婚礼のダイヤの付いた腕輪は!?お父様に結婚の許しを乞いましたの!?」


「ああ……急いでいるので、腕輪は後で用意いたします」


 エドワゥはあたくしの耳元で、囁きました。


「伯爵にも内緒でこの館を出て、お嬢様を連れて行くのです。とても伯爵にお許しなど乞えません」


 当たり前ですわね。エドワゥはお父様の情人でもあるわけですし……


「あたくしは、お腹がすくと非常に凶暴になりますわよ」


「知ってますって!!空腹になると、テーブルに静物画用に飾ってある果物を勝手に食べてるでしょ?」


「あたくし、空腹が何より嫌なのですの!!」

「お嬢様を空腹などには致しません。」


 これぞ待っていた言葉かもしれませんわ!!

 あたくしももう、22歳!!

 妹のミレーユの結婚が決まって、早くこの家から出なくてはならない、立場になりました。


 あたくしは一大決心をしてエドワゥの胸に飛び込みましたわ。

 そして、ムフフのお楽しみの後に深夜、それは決行されました。


 エドワゥは主人のもとを去る。

 あたくしには2度目の駆け落ちという名の家出が。



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