第13話  苦悩する伯爵令嬢

 あんなに情熱的な夜だったのに、信じられませんわ。

 彼はあたくしをお金で買った、だなんて言うなんて。

 割り切った遊びというのが、大人の恋愛事情というものでしょう?

 それをアランは、妹のミレ-ユの婚約者だから遊びは出来ないと言いましたわ。

 だったら、何故あたくしと夜のお城で秘め事などしたのでしょう……


「お嬢様……お帰りになってから、ずっと溜息をついていますね。

 どうかしましたか!?」


「エドワゥ……あたくし、人間不信になりそうですわ……」


「人間不信とは……穏やかではないですね」


「そうですわ。この金貨はエドワゥにあげますわ」


「どうしたんですか!?この金貨はアルテア発行の一番新しいものですよ!!」


「道理でピカピカしてましたわ。あの成金男の持ち物などいりませんわ!!」


 あたくしはエドワゥに、アランから貰った金貨を投げつけてやりました。


「あたくしの一晩の料金だそうですわ」


「お嬢様の……?この辺りの娼婦の相場は銀貨が二枚と銅貨が3枚程度らしいですよ。お嬢様、高く買ってもらえましたね」


 エドワゥは感心したように言っておりましたけど、問題はそこではありません。

 何故、伯爵令嬢のあたくしが娼婦のように扱われたか、ですわ!!


「貴族の皆さん、遊びだと割り切っていると言っても、やってることは同じでしょうに。伯爵様も、お嬢様も」


「お金を貰ったことなど、一度もありませんでしたわ。」


「アラン様は余程、お嬢様を嫌っておいでのようですね……」


「あたくし、アランに嫌われる覚えはありませんわ」


 話が平行線になってしまったので、アランが話題を変えてきましたわ。


「お嬢様、僕はわりとお金が溜まって来たんです。どうです!?郊外で家を借りて絵師の夫人というのをやってみませんか!?

 何なら、専属モデルはお嬢様おひとりでも構いませんが」


 あたくしは持っていた扇をポロッと落としましたわ。

 エドワゥがこんなことを言うなんて……

 でも、あたくしの見合い肖像画を描くために雇われた絵師のあなたの絵を誰が買ってくれるというのです?



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